社説・天風録
(天風録)移動劇団「桜隊」 '06/7/9

演劇人らしい華が、どの表情からも感じられる。広島市の国立広島原爆死没者追悼平和祈念館で、被爆死したメンバー九人の遺影が最近そろった移動劇団「桜隊」に向き合った▲桜隊は築地小劇場出身の丸山定夫を中心に一九四五年に結成。活動拠点を広島に移した。山陰巡演を終え、待機していた九人が堀川町の宿舎で八月六日を迎えた。五人が即死し、残る四人も後に死亡した。殉難碑が東京と広島にある▲遺影登録は昨年夏、演劇鑑賞団体「広島市民劇場」が原爆の碑めぐりの一環で祈念館を訪れたのがきっかけだった。広島の殉難碑の前で毎年「偲(しの)ぶ集い」を開いている縁がある。一部の遺影しか登録されていないのを知り、東京の「桜隊原爆忌の会」などと連絡し全員の登録にこぎ着けた▲年齢は二十代から四十代前半。裏方も含め、ひたむきに舞台づくりに励んでいた。戦後の演劇界を担ったに違いない人生を断ち切られた。遺影と体験記で被爆の実相を伝え、犠牲者を追悼する祈念館に「無念の思い」がまた加わった▲桜隊は、劇作家井上ひさしさんの戯曲「紙屋町さくらホテル」のモデルでもある。登場人物が演劇に傾ける情熱をコミカルに描く。一方で戦争指導者の責任を厳しく追及する▲「忘れることが一番の罪」。遺影を登録した人たちの思いである。「紙屋町…」のこまつ座公演が近く市内などである。観劇を通じて、あるいは祈念館で、忘れてはならない無念に思いをめぐらせたい。

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