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社説・天風録
'12/7/30
【天風録】めぐり来る8月
「オシャカサマ」と言いながら、印画紙をちぎって相手の頭の上からまく。何度撮っても気に入らないのだ。終戦間もない東京。日本の報道写真の草分け、名取洋之助の注文に弟子は泣かされたという▲「どう撮ればいいんだよ」。銀座4丁目交差点の撮影に困った仲間に、「MP(憲兵)のお立ち台に寝転んで魚眼で狙え」。そう助言したのが森利太さん。名取が主宰した日本工房を経て、広島でダム・河川工事を映画に撮る事業を起こした▲若き日は海軍の戦闘機乗り。台湾沖で被弾したが、南シナ海で5時間漂流して救われた。「特攻帰り」と呼ばれた時代もあったろう。「あいつとけんかすな、と恐れられたもんよ」と晩年懐かしんでもいた▲出会った人は多士済々。その中に吉村昭がいる。彼の名を広めた小説「戦艦武蔵」は、取材ノートがまず日本工房のPR誌に載った。その末尾に、小説は書かずに終わるかもしれない、と記す。でも「戦争のはかなさは解明したい」と▲森さんはその思いに胸を熱くした。ノートが本になった折も同じ一文を残した吉村。その死から6年後の今月、森さんの訃報を聞く。めぐり来る8月。戦後67年の歳月を思わずにいられない。
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