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NPT再検討会議 米の譲歩が打開のカギ

【社説】 米ニューヨークの国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、秋葉忠利広島市長や伊藤一長長崎市長らが演説し、被爆者の思いを代弁、核廃絶などを訴えた。しかし、米国とイランの議題をめぐる対立で、実質討議に入れなかった同会議では、空席も目立ち、市長らの声に耳を傾けたのは約百九十のNPT加盟国のうち三十カ国余りだったと伝えられた。残念ではあるが、さらなる働きかけを強めたい。

 秋葉市長は、被爆者のゆがんだつめ(レプリカ)を見せながら、核兵器の実践配備の即時解除や二〇二〇年までの核廃絶を訴えた。被爆者らも「核兵器は悪魔の兵器」と廃絶への道筋を示すよう求めた。

 再検討会議をめぐる周辺の動きには、核廃絶への新たな可能性を期待させるものも少なくなかった。広島市長が会長を務める平和市長会議の代表団会議がニューヨークで開かれ、十六カ国七十八都市の市長らが出席した。米国の平和団体主催による反戦・反核のパレードと集会がニューヨークで行われ、四万人(主催者発表)が参加した。参加した一人の米国人の「政府に対し、市民が黙って物事を見ているわけではないと知らせたかった」との発言に一つの可能性が感じられた。国連本部ロビーでの原爆展開催をはじめ、国連側のバックアップも目立った。

 再検討会議がつまずいた主な対立点は、米国が、前回の再検討会議以降の五年間にあった「出来事」を議題に盛り込むよう求めているのに対し、自国の核開発疑惑を会議の焦点にしたくないイランが抵抗しているためだという。NPT違反へのペナルティーを強めたい米国と、平和利用を盾に停止中のウラン濃縮関連開発を再開したいイランが対立、ドゥアルテ再検討会議議長(ブラジル)の調整が難航しているもようだ。

 確かに、イランや北朝鮮の核開発疑惑は放置できない問題である。しかし、核大国である米国が、NPT条約の前提である核軍縮に逆行する動きを見せるようでは、非核保有国の納得を得るのは難しい。包括的核実験禁止条約(CTBT)を拒否、新しい核兵器開発の動きを見せる米国には、他国に核開発禁止を迫る説得力は乏しいともいえよう。しかも、前回の再検討会議で「核廃絶への明確な約束」を明記したのに、一転してそれを死文化しようとするのは、信義のうえからも許せない。

 そうした背景を考えたとき、米国がその単独主義から一歩でも譲歩することが、会議の実質的な討議の道を開くことにつながろう。ドゥアルテ議長もいつまでも水面下の調整にこだわらず、米国とイランの姿勢を明らかにして、他の加盟国の批判にさらす必要がある。

 今回は日本政府も町村信孝外相を派遣、演説では米国の拒否するCTBTの早期批准を訴えたり、原爆展の感想を演説に取り入れるなど、一定の積極性を見せた。しかし、米国への働きかけを本気で行うとともに、そうした日本の姿勢を積極的にアピールする必要があろう。水面下で米国に意見を述べるだけでは独自外交とはいえない。肝心なのは平和や核廃絶への独自姿勢を明確に世界に分からせる外交である。

(2005.5.7)