NPT会議決裂 重さ増す被爆国の責任
【社説】 一体「核軍縮」という命題はどこへ行ったのだろう。ニューヨークの国連本部で一カ月近く開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、実効性のある合意文書を採択できなかった。核保有国と非核保有国の根深い対立と、条約の空洞化が浮き彫りになっただけである。
広島、長崎に原爆が投下されて六十年。北朝鮮の核開発問題やイランのウラン濃縮関連活動、「核の闇市場」による拡散など核をめぐる情勢は緊張が高まっている。被爆地が訴え、強く望んだ「核軍縮の後退に歯止めをかける絶好の機会」を生かせなかったのは本当に残念だ。
「核軍縮」「核拡散防止」「原子力の平和利用」の主要委員会が議論をまとめられなかったのは、議題決定をめぐる対立で会期の半分以上を費やし、時間不足が理由という。イランやエジプトなどが審議を遅らせたのが要因の一つとされる。
核保有国を米中など五カ国に限定しようとするNPT体制には、非核国の一部から「不平等条約」との不満がくすぶっている。
加えて、イランなどと米国との対立がネックになった。イランは「原子力の平和利用」を主張し続け、米国はイランの核開発阻止を最優先課題と位置付けた。イランが猛反発、国益むき出しの争いが演じられた。エジプトは議題決定で、再三異議を申し立てた。NPT未加盟で核保有国のイスラエルを放置している米国の中東政策に不満があるためだ。
核超大国の責務を果たそうとしない米国の対応に問題があるのは確かだ。ブッシュ政権は包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を拒否し続け、たなざらしにしている。その一方でイランなどへの先制核攻撃を視野に小型核兵器の研究、開発を進める。単独行動主義に基づく安全保障観からだが、核兵器廃絶の道筋に明らかに逆行する動きである。
米国が今回の結果を思い通りとすれば大きな間違いだ。米国が大国エゴを強めれば強めるほど、非核国の反発は強まり、核を取り巻く緊張感はさらに増す。米国は冷静に考えるべきだ。
会議で、原子力の平和利用まで合意に失敗した影響は大きい。NPT脱退防止強化策などがまとまらず、北朝鮮に続く脱退宣言国を生む恐れを残してしまったからだ。隠れて核兵器を開発する国が増えることも懸念される。米国が核軍縮へ譲歩をみせることが、こうした国に口実を与えないことにもなるのだ。
五年前の前回会議では、「核兵器廃絶への明確な約束」という画期的内容の最終文書を採択した。「新アジェンダ連合」(NAC)の功績だった。ところがけん引役だったエジプトが今回は動かず、とりまとめ役が不在だったのも響いた。
被爆者たちが「絶対悪」と訴えた核兵器。その廃絶を保有国へ迫る唯一の政府間会議がNPT再検討会議である。日本はCTBTで米側から譲歩を引き出そうとしたが失敗。米国の「核の傘」の下にある現状から結局、指導力を発揮できなかった。
NPT体制が危機的な状況になった今、立て直し策を協議する場が必要になる。日本が中心になって早急に動くことが大切だ。
(2005.5.28)