2000年7月8日

 放射能兵器である劣化ウラン弾の影響を知るため米国、英国、イラク、ユーゴスラビアの四カ国で実態を取材した。初めて実戦で使われた湾岸戦争だけでなく、米国の生産現場や試射場でも健康被害や環境汚染は深刻だった。だが、劣化ウラン弾はいまなお有効な「通常兵器」として拡散し、コソボ紛争の時のように将来も使われる可能性は高い。シリーズの締めくくりに、あらためて健康被害や環境破壊について見つめ直し、国際的な禁止運動の高まりや被爆地の役割について考える。 
(田城 明、写真も)

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広がる健康被害

「がん一層深刻に」専門家先行き懸念

 若くしてさまざまな疾病に苦しむ米・英両国やイラクの湾岸戦争退役兵。白血病などに侵され希望のない闘病の日々をすごすイラク南部の子どもたち。がんなどの病気の増加に不安を抱く劣化ウラン弾の製造現場や試射場周辺の住民…。 

 痛ましい子の疾病

 各地で会った被曝(ばく)者らの顔が浮かぶ。とりわけ、がんなどに襲われた罪のないイラクの子どもたちの姿は、医療設備や必要な薬がそろっていないだけに一層痛ましい。

 「私たちは、がん病棟のことを『死の病棟』と呼んでいます」―バグダッドのサダム中央教育病院のチーフ研修医(29)の言葉が、患者を救済できぬ現実を如実に物語っていた。戦場に近いバスラの小児・産科病院の女性医師(32)は「いくら現状を外国の記者に話しても、経済制裁はなくならない。子どもたちを救えぬ事実も変わらない」と、いらだちを隠さなかった。

 湾岸戦争で劣化ウラン弾を使用した米国の国防総省と英国の国防省は、自軍兵士たちの被曝の事実は認めながら「健康に影響を与えるほどのものではない」と、その影響を否定し続けている。

 既に死亡した者を含め、膨大な数の両国の退役軍人たちの疾病の原因を、劣化ウラン弾のみに帰するのは難しいだろう。というのも、十分なテストもなしに取らされた抗化学兵器剤の臭化ピリドスチグミン(PB)など、他の要因も加わっているからだ。

 しかし、その事実は劣化ウラン弾の危険を排除することにはならない。酸化ウラン微粒子を体内に取り込んだことによる内部被曝や、重金属物質としての化学的毒性による影響を重視する見方は、時の経過とともに強まっている。

 家族にも危険及ぶ

 九年後になっても尿から検出される劣化ウラン…。その影響は、性交渉を通じて妻に、そして流産や先天性異常という形で新しい生命にまで及んでいる。危険性さえ知らせておれば、家族に累を及ぼすことだけは防ぎ得たはずだ。

 湾岸戦争では、米・英の多国籍軍兵士のほかにもカナダ、フランス、旧チェコスロバキアなどの退役軍人の間にも健康被害が広がっている。

 「加兵2000人に障害」

 カナダ人で昨年四月、四十五歳で夫のテリーさんを亡くした妻のスーザン・ライアドンさん(45)=ノバスコシア州ヤーマス市=は「湾岸戦争参加のカナダ兵約四千五百人のうち、二千人以上が健康障害にかかっている」と、電話で訴えた。

 帰還直後から体に異変を覚え、最後は全身の痛みに襲われたテリーさん。尿から大量の劣化ウランが検出されていた彼は「自分の死が劣化ウランによるものとの証明になるなら」と、遺書であらゆる臓器や骨などの組織検査を、米国の独立の研究機関に依頼した。

 「肺や甲状腺(せん)、骨などから研究者も驚くほど検出されたわ」と言うスーザンさんは、夫の死が劣化ウランによってもたらされたと確信する。

 医療現場でのエックス線照射など低レベル放射線の人体への疫学的調査を長年続けるカナダ・トロント市の「公衆衛生に関する国際研究所」所長ロザリー・バーテルさん(71)は「湾岸戦争から九年がたち、今後がんの増加など退役兵らの疾病は一層深刻になるだろう」と厳しい見方をしている。

白血病で入院し、母親に見守られながら闘病生活を送る8歳のイラクの少年(バスラ市)

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