2000年7月9日

2崩れる環境

広がる放射能汚染 重金属被害も深刻

劣化ウラン弾で破壊され、放置された戦車。周辺の畑の放射能汚染が懸念される(イラク南部サフアン市郊外)

  一九九一年の湾岸戦争で戦場となったクウェート国境に近いイラク南部。そして昨年のコソボ紛争で、劣化ウラン弾が使われたユーゴスラビアのセルビア南部やコソボ自治州―。

 大小合わせ95万個

 これらの地域を取材しながら、幾度となく同じ思いにとらわれた。「投下国の米国で同じ状況が起きていたら、市民はどのような反応を示すのか」と。

 湾岸戦争で米・英両軍は、二五ミリから一二〇ミリ砲弾まで大小合わせて約九十五万個の劣化ウラン弾(約三百二十トン)をクウェートとイラク南部で使用した。イラクの科学者らが九六年から始めた土壌や大気の調査では、劣化ウラン弾で破壊された戦車のすぐそばや周辺から、比較的高い放射能が今も検出されている。

 U238クウェートも

 「不発弾として地中に埋まったままの劣化ウラン弾のそばの土壌だと、放射能レベルはもっと高くなる」。バグダッド大学助教授の女性環境学者(47)は、こう強調した。同じ状況は、ユーゴスラビアの科学者らの調査でも証明されている。

 不発弾がどれだけ埋まっているのか。イラクでもユーゴスラビアでも、検討がつかないのが現実だ。劣化ウラン(U238)の半減期は四十五億年。微量とはいえ、大地にばらまかれたU238は永遠に放射線を放出し続ける。

 米ニューヨーク州の州都アルバニー郊外にあった劣化ウラン弾の貫通体製造工場は、一カ月の劣化ウラン放出値が州基準の一五〇マイクロキュリー(劣化ウラン量にして三百八十七グラム)を超えたとして閉鎖された。

 四国とほぼ同じ面積のクウェート。ここでの劣化ウランによる放射能汚染は、イラク南部と同じか、あるいはそれ以上に深刻との見方は強い。九一年七月に起きたドーハでの米弾薬庫の火災では、大量の劣化ウラン弾が燃え、環境汚染を引き起こしたとされる。だが、米政府も当のクウェート政府も「環境には影響ない」と、発表している。

 サウジアラビアでは、湾岸戦争直前に米・英軍の劣化ウラン弾の実射試験場があった。ここでの汚染も懸念されている。

 劣化ウランは、核兵器や原子力発電用の濃縮ウランを生産する際に大量に生まれる放射性廃棄物である。低レベルとはいえ、各国とも厳しい取り扱い基準を設けている。

 例えば、米国では原子力規制委員会(NRC)の許可なしに劣化ウランを扱うことはできない。弾芯(しん)である貫通体をつくる工場労働者らは、防護マスクの着用や被曝(ばく)線量を知るためのフィルムバッジを、常に身に付けることが義務づけられる。

 ずさんな現場管理

 しかし、生産第一主義の現場でのずさんな管理やNRCの甘い監視体制が、こうした工場での深刻な環境汚染を引き起こし、労働者、周辺住民の健康被害を生み出した。

 マサチューセッツ州コンコードの製造工場では、敷地内に長年U238のスラッジ(汚泥状の廃物)や汚染水を投棄し続けた。このため周りの土壌や地下水が放射能で汚染され、工場敷地外への広がりを防ぐ除染作業が急務だ。

 しかも、劣化ウランは水銀やカドミウムなどと同じ毒性の強い重金属物質である。放射能ばかりでなく、重金属による複合汚染を引き起こす。

 米国内の陸・海・空軍の劣化ウラン弾の試射場の汚染も深刻である。

 世界の放射能汚染地帯の実態をまとめた「核で失われた不毛の大地」の著者の一人で、米ワシントン郊外にある「エネルギー環境調査研究所」所長のアージャン・マキジャニーさん(55)はこう警告する。

 「これまでの核兵器開発や核実験、チェルノブイリのような原発事故によって、米国や旧ソ連をはじめ放射能汚染地帯は地球上に広がっている。厳重な管理を必要とする放射性廃棄物を武器に使い、それが有効だからと他の国へまき散らすような行為は、断じて許せない」

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