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拡散する劣化ウラン弾通常兵器CONTENTS:
劣化ウランの特性 -湾岸戦争とは-
劣化ウラン弾の影響
その他の影響

劣化ウラン弾の主な使用地域(map)




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 湾岸戦争で、自軍が使った「劣化ウラン弾」という放射能兵器によって発病する米国の退役軍人。放射能などの危険性について「何も教えられていない」という点は、一九四〇年代後半から六〇年代にかけ、大気圏核実験に参加してがんなどに襲われた多くの被曝(ばく)米兵と同じであった。通常兵器として扱われ、武器輸出によって世界に拡散する劣化ウラン弾とは、どのような兵器なのか。なぜ膨大な数の米軍兵士が被曝したのか。劣化ウラン弾の特性や影響力を、湾岸戦争時の写真を交えて紹介しつつ、その背景を探る。
(田城 明)

放棄された死体砂漠に放棄されたイラク兵の死体。劣化ウ ラン弾の高熱で黒こげになったそのさまは、絵を通じて被爆者が訴 えたヒロシマの惨状を思い出させる(1991年2月、イラク南 部)=キャロル・ピクーさん提供
放棄された死体 砂漠に放棄されたイラク兵の死体。劣化ウ ラン弾の高熱で黒こげになったそのさまは、絵を通じて被爆者が訴 えたヒロシマの惨状を思い出させる(1991年2月、イラク南 部)=キャロル・ピクーさん提供
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核廃棄物利用
高比重で戦車も貫く

≪劣化ウランの特性≫

 ウラン鉱山から採掘した天然ウランは、濃縮過程の中で、まず核兵器や原子力発電所用の燃料となるウラン235(U235)と、 低レベル放射性廃棄物となるウラン238(U238)に分離される。高レベル放射性同位元素のU235は、全体の一%にも満た ず、残りはほとんどがU238である。

 大量に生み出される強い毒性を持つこの金属物質を「劣化ウラン」と呼ぶ。劣化ウランは、主要にはアルファ線を放出し、半減期 は地球の歴史にも匹敵する四十五億年である。

 劣化ウランの蓄積は、米国では原爆製造の「マンハッタン計画」が始まった一九四〇年代前半から今日まで続いている。これまでの 蓄積量は五十万トン以上。ケンタッキー州パデューカにあるウラン濃縮用核施設など三カ所で、金属容器に収められて戸外に積まれてい る。

 劣化ウランは鉄の約二・五倍、鉛の約一・七倍比重が重い。このため砲弾の弾芯(しん)に利用すると強い運動エネルギーが得ら れ、頑丈な戦車でも貫通する。しかも、貫通時の衝撃で高熱を発して燃焼し、戦車内の兵士をも殺してしまう。加工も容易で、大量に ある原料は「廃棄物利用」のため、管理責任を負うエネルギー省(DEO)からただで支給される。

 米軍部は、劣化ウランのこうした特性に目を付け、東西冷戦下の一九六〇年代にロスアラモス国立研究所(ニューメキシコ州)など と協力。旧ソ連の対戦車用兵器として、劣化ウラン弾の研究に乗り出した。七〇、八〇年代には軍と契約した幾つかの軍需工場で生産 が始まり、試射実験も全米各地で繰り返された。

貫通痕 友軍の誤射により、劣化ウラン弾の貫通痕がくっき り残る米軍のブラッドレイ装甲車。車体には「イラクをやっつけろ」の落書きも(1991年2月、イラク南部)=ジェリー・ウィ ートさん提供核廃棄物利用 高比重で戦車も貫く
貫通痕 友軍の誤射により、劣化ウラン弾の貫通痕がくっき り残る米軍のブラッドレイ装甲車。車体には「イラクをやっつけろ」の落書きも(1991年2月、イラク南部)=ジェリー・ウィ ートさん提供核廃棄物利用 高比重で戦車も貫く
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 湾岸戦争で初めて劣化ウラン弾を使用した米軍は、戦車から一二〇ミリ砲や一〇五ミリ砲を発射。戦闘機からは三〇ミリ砲と二五ミリ砲で 空爆した。英国軍は戦車からのみの使用である。「砂漠の砂嵐(あらし)作戦」(九一年二月二十四日―二十八日)期間中に、少なく とも戦車から一万個、戦闘機から九十四万個の劣化ウラン弾が発射された。

 一二〇ミリ砲の場合、劣化ウラン貫通体の重さは約四千七百グラム、三〇ミリ砲だと約三百グラムである。衝撃による燃焼で、このうち七〇%〜 二〇%が酸化ウランの微粒子となって大気中に飛散する。いったん酸化ウランの微粒子を体内に取り込むと肺などにたまり、 放射線や強い化学毒性による影響で、がんなど健康障害を引き起こすと言われている。

 米原子力規制委員会(NRC)は、U238の一日の体内摂取限度量を、一般人〇・一九ミリグラム、原子力施設関連従業員二ミリグラムと定めている。

劣化ウラン弾の主な使用地域(map)



 ≪湾岸戦争とは≫

 一九九〇年八月二日、イラクが隣国クウェートに侵攻、全土を制 圧したことが導火線となる。
 イラクのサダム・フセイン政権は、世界でも有数の産油国である クウェートを自国領と主張。これに対し、米国を中心とした西側諸 国は、フセイン政権の狙いが石油の利権確保、アラブ諸国の盟主と しての地位確立にあるとして、猛烈に反発した。米ブッシュ政権は 旧ソ連や中国を説得し、国連の名において米軍を先頭にした二十八 カ国からなる多国籍軍を形成。九一年一月十七日の空爆を契機に、 湾岸戦争に突入した。
 多国籍軍は二月二十四日に地上戦に突入、圧倒的戦力で二十六日 にはクウェートを解放。二十八日に戦闘は終結した。三月三日、イ ラクが国連安保理による停戦決議を受諾し、停戦協定が締結され た。協定には、核兵器の保有・開発・研究を禁止し、国際原子力機 関(IAEA)の査察を受け入れることなどが含まれている。

劣化ウラン弾の影響