中国新聞社

2000・7・7

被曝と人間 第6部 提言 臨界事故に学ぶ
〔5〕

原子力の将来 国民議論を

 周辺住民をも巻き込んだ東海村臨界事故の衝撃は、わが国の原子 力平和利用の是非について緊迫した論議をもたらした。

 「原子力の安全神話は崩れた」

 「原子力発電所で事故が起きたらどうするのか」

 核の危険性をたたみかける原発反対派に対し、国や電力会社は従 来の主張を繰り返した。

 「地球温暖化を防ぐため、二酸化炭素を排出しない原発を推進す べきだ」

 「資源の乏しい日本では、エネルギー安定供給のために原発が必 要だ」

 こうした原発の是非をめぐる論議を、わたしたちは、どれだけ身 近な問題として受け止めているだろうか。

 ■消極的容認が大勢

 原発に怖さは感じる。でも、今の豊かな暮らしを保つには、総発 電量の三分の一余りを担う原発を止めることはできない。原発は必 要悪だ―。こんな「声を上げない消極的な原発容認派が日本人の大 勢だ」。立命館大の安斎育郎教授(放射線防護学)は指摘する。

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で恐怖に震えた欧州では、原発 縮小に流れが傾いている。現在ある十九基の原発を全廃する方針を 決めたドイツのほかに、スイス、ベルギーなどでも「脱原発」が主 流になりつつある。

 ■「安全神話」を強調

 「ポスト原発」の世界を描けないまでも、着々と歩を進めてきた 欧州。一方、日本は「事故は起こり得ない」と「安全神話」を強調 し、不安の沈静化に躍起になってきた。わたしたちが、核の時代に 生きていることを真剣に考えていなかった、と言わざるを得ない。

 確かに、臨界事故後、原発に対する逆風は強い。政府は、二〇一 〇年度までに原発を十六~二十基新設するという目標を下方修正し た。通産相の諮問機関「総合エネルギー調査会」は将来のエネルギ ー政策全般の見直しを強いられている。だが、原発推進の前提の上 での議論でしかない。原子力に対する日本と欧州の姿勢の差は、際 立ってきている。

 その最中、国内では、原子力をめぐる最大の課題が動き始めた。 高レベル放射性廃棄物の問題である。五月末に特定放射性廃棄物最 終処分法が参院本会議で可決、成立した。原発から出る「核のご み」を地下深く埋めるための枠組みを設けるためだ。千年~一万年 と途方もなく長い間、強い放射線を出し続ける高レベル放射性廃棄 物は、世代を超えた監視が強いられる。次代に重いツケを残さぬた めに、われわれの世代が何をしなくてはならないのか。先送りでき ない問題だ。

 臨界事故は、原子力災害が現実に起こり得ることを見せつけた。 わたしたちは、命にかかわる問題として、原子力にいかにかかわる のかを真剣に議論する時が来た。現実には、既存の施設の安全性を いかに高めるかを原則とした上で、原子力とどう向き合うのか、前 提なき国民的議論が必要だろう。

 ■「ノーモア核被害」

 その際、「ノーモア核被害」の立場を貫く姿勢を忘れてはならな い。被曝(ばく)者を二度と出さないことを最優先に考えよう。そ れが、世界で唯一の被爆国に課せられた、最低限の責務でもある。


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