2000年4月28日
5 草の根市民
安全守る地道な活動 「製造禁止」も追求
スターメッツ社の空撮写真をそばに、放射能汚染除去の進め方について話し合うジュディ・スコットニッキーさん(左から3人目)、メアリー・ウィリアムズさん(右端)らCREWのメンバー(マサチューセッツ州コンコード町)

  「考えられることはすべてやってきたわね」「そうね。でも、まだまだこれからよ」…。

 作家のメアリー・ウィリアムズさん(56)と元高校教師のジュディ・スコットニッキーさん(57)は、十一年間の草の根市民活動を振り返りながらこもごもに言った。

  放射能汚染を告発

 マサチューセッツ州コンコードのジュディさんの自宅に集まった「市民による調査・環境監視(CREW)」のメンバー。共同創設者の女性二人は、仕事や子育ての傍ら、一九八九年以来、劣化ウラン弾の製造にかかわる地元スターメッツ社(旧核金属社)の放射能汚染問題を中心になって告発してきた。

 「会社や町の有力者らからはエキストリミスト(極端主義者)だなんて言われながらね。だけど要求してきたことは安全な市民生活を守るという素朴な要求ばかりよ」。初代会長を務めたメアリーさんは、ほおを染めて言った。

 CREWが最初に取り組んだのは①スターメッツ社が取り扱う劣化ウラン物質の防護対策②火災時の住民の避難計画③敷地内に投棄された放射能汚染物質の除去と時期の設定④そのための財源確保―だった。千人近い署名を集め、九〇年に町健康委員会に提出した。

 「反応はさんざんよ。納税やら学校、病院などへの寄付で地域に貢献してきた企業でしょう。何の回答も得られなかったわ」とジュディさん。

 関連資料1200ページ分析

 九一年にはCREWが雇った核物理学者が、原子力規制委員会や州環境保護局に保管された千二百ページ分の関連資料を分析、その結果を発表した。湾岸戦争で停戦協定が成立してひと月とたたない地元紙のミニットマン・クロニクル(三月三十一日付)には、当時のことがこう記されている。

 「湾岸戦争で、多国籍軍は核金属社が造った劣化ウラン貫通体を使用し、イラクの戦車破壊に貢献した。しかし、製造下のコンコード住民は、兵器生産などに使われているウランが、彼らの将来の健康の脅威になると懸念の声を上げている」と。

 資料分析により、劣化ウランなどによる会社敷地内の地下水や土壌の汚染、敷地外へのウラン微粒子の飛散も判明した。五十近い煙突の中でフィルターが使われていたのはわずか二個。劣化ウランの高い発火性により、製造過程で小さな火災を何度も起こしている事実もつかんだ。

 集会やタウンミーティングでの訴え、新聞への投稿、署名活動、コンコード保健委員会や州環境保護局、会社との交渉、専門家を雇っての土壌の汚染調査…。

  完全な除去求める

 「私たちはこの十一年間、劣化ウランによる汚染や危険性を自ら学び、あらゆる方法で地域の人たちに伝えてきたの。少しずつ理解は得られていると思うわ。でも、まだ大量に残っている会社内の汚染土壌や地下水を取り除くという差し迫った課題が残っているのよ」とジュディさん。

 CREWのメンバーは、連邦政府環境保護局の「スーパーファンド」の認定を受け、一刻も早く除染作業にかかることを求めている。今年に入ってようやくその方向で進もうとのコンセンサスが町民の間に出てきたともいう。

 ジュディさんたちの取り組みは、完全な除染作業を会社や関係機関に迫るだけではなかった。活動を通して、劣化ウランなどの放射能汚染問題を抱える他の地域とのネットワークや、病気に苦しむ湾岸戦争退役軍人とのつながりも生まれていった。

 「劣化ウラン弾の使用が人々や環境にどれほど悪影響を及ぼしているか。それを考えると、劣化ウラン弾の製造を禁止させることもコンコード住民の責任だと思うの」

 ジュディさんの言葉にうなずくCREWのメンバーの活動は、新たな広がりを見せている。

next | back | 知られざるヒバクシャindexへ