■ 7 ■ 拾う神 「厄介者」から名産に |
![]() (03.5.1) | ||
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同じ瀬戸内の島々からイノシシ対策の視察が続く広島県倉橋町に
また、見どころが増えた。今月完成した食肉処理場。駆除わなに掛
かった島内のイノシシから肉質のいい獲物を選び、五月から精肉や
料理にして売り出す。一年目は六十頭の資源化を見込む。
「これまで、死に金だったんよ、害獣駆除費は。形に何も残らな い。獲物のイノシシはごみ同然で、捨て場所に困るだけじゃった し」。町産業経済課の出来悦次課長(56)が言う。 駆除の経費、畑を囲うさくの購入助成など、町が一九九〇年度か ら組み出したイノシシ対策予算は、年を追って膨らんでいた。十四 年間で総額は九千万円を超える。 ◇ ◇
有害駆除のイノシシから名物料理や特産品を作って「死に金」を 回収し、地域経済の活性化に役立てたい―。そんな発想が、総工費 約千三百万円(66%は県補助)をかけた県内初の専用処理場の建 設につながった。 処理場の運営は、町設のリゾート温泉施設やレストランも任され ている町100%出資の財団法人倉橋まちづくり公社が引き受け る。 「すごく面白いチャレンジ。海渡るイノシシのイメージで、地中 海風のおしゃれな料理に仕立てたい」。公社事務局長の小林春男さ ん(56)は、さも愉快そうに青写真を描く。以前、広島市内の大手ホ テルで宴会畑を歩いた勘だという。 事前PRを兼ね、今年二月の町産業祭で、洋風の猪(しし)肉料 理を島内外の観光客に振る舞った。味付きの空揚げ、ベーコン風焼 き肉、くし焼き…。糖度の高い町特産の完熟トマトをベースにした シチューも出し、喜んでもらった。 倉橋ブランドのイノシシ料理づくりに向け、公社のコックたちは アイデアを練り上げている。 ◇ ◇ 歯車が回り始めたイノシシの資源化事業。出来課長には二つ、気 がかりがある。一つは、都会からの反発。「獣害の実態を知らない 人から、動物の命を奪うなと、批判を浴びないか」。都市住民は、 猪肉を食べに来てもらうお客でもある。 もう一つは、たとえ猪肉が好評で売れ切れても「観光客のため に、捕る獲物を増やすわけにいかない」。駆除は農業被害を防ぐた めで、食肉化はあくまで副産物という建前は外せない。幸か不幸 か、駆除数は増える一方で、二〇〇二年度は史上最多の九百三十頭 に達した。 今月十七日、約三十キロ離れた山口県の周防大島から、四町や農 協の職員が視察に訪れた。イノシシがいなかった大島でも今年、東 和町で駆除わなに掛かり出した。「被害を出させず、滅ぼさず。イ ノシシとは持ちつ持たれつ、いうことか」。倉橋島の実態を聴いた 一人が、悟ったようにつぶやいた。 (おわり)
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