田んぼ夜襲 実り横取り… 苦悩深める農家 食いしん坊のイノシシは、農家を上回る執念で田畑を回り、実り を待つ。「こりゃ、かなわん」…。被害に遭って初めて、慌てだす 農家も珍しくない。研究者の案内で、獣害の一端を浜田市内の山里 で追い、自衛策として脚光を浴びている箱罠(わな)の扱い方も聞 いた。 (文・石丸賢、林淳一郎 写真・山本誉)
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![]() 特 集 (03.1.21) | ||||
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![]() 浜田市の中心部から東に十五キロ。下有福地区の山すその集落 で、隣り合う三軒の農家がイノシシの常襲に悩まされている。忍び 寄る獣に、その対応は三者三様に分かれていた。 ●泣く泣く稲刈り早める 昨年八月末の朝。あぜに立ち尽くす入野時雄さん(67)がいた。十 アールの田の一角が渦を巻き、倒れている。イノシシの夜襲が始ま ったのだ。実が固まる前の、のりのような稲は、彼らの大好物。口 で稲穂をしごき、かんでもみ殻を吐き出す。 「少し早いが、全部食われる前に刈るよ。収量は、例年の六割ぐ らいじゃね」。イノシシが踏み倒した稲は、機械では刈り取りにく い。かまを手に、腰を曲げた。 ●電灯照らし徹夜の警戒
その南隣では夜通し、古和徹雄さん(59)が田んぼの見張りで起き ていた。軽トラックに身をひそめ、二十分ごとに三十アールの田を 回り、懐中電灯で辺りを照らした。 「すぐそこの山の中に入ったら、獣道だらけじゃった」。敵は予 想以上に近づいている。寝ずの番は三日三晩、一人きりで続いた。 ●「割合わぬ」耕作放棄も 浜田市では、農家の半数以上が三十アール未満の水田しか持って いない。わずかな収穫を横取りする獣害は、こたえる。 近重正利さん(53)は四年前、耕作をやめた。「イノシシは、台風 と違うて毎年来るからなあ」。雑草が覆う休耕田に、ひづめ跡が走 る。田植えや稲刈りの機械を数百万円かけてそろえても、十年でが たがくる。「どう考えても、割に合わん。米を買わにゃいけんのは 寂しいが、仕方ない」 自衛手段 罠 が有効 ―扱い方アドバイス 農学博士・小寺祐二さん
![]() ●罠の種類 ―扱い簡単な箱罠がお薦め イノシシを捕獲する罠は、おり型の箱罠と、バネとワイヤを使う 脚くくり罠が主流。獣道を探し、その上に掛ける脚くくり罠は、高 度な技術と経験が必要だ。 私は調査で耳標を付けるイノシシを捕まえるのに、箱罠を使って いる。箱罠は重く、持ち運びが大変だが、くくり罠より、扱いは簡 単だから、お薦めしたい。 ●箱罠とは ―仕掛けと扉の距離は長く 金網などで作られ、高さと横幅が一メートル、奥行きは二メート ルのものが多い。値段は十~十五万円。購入補助や実物の貸し出し をしている市町村もある。 入り口の扉を閉める仕掛けには、イノシシに邪魔な針金をはね上 げさせるタイプや踏み板式など、いろいろある。肝心なのは、その 仕掛けから扉までの距離が遠いこと。扉が閉まりきる前に、俊敏な イノシシに逃げられないようにしたい。 扉は、素早く閉まらないといけない。引っ掛かるなど、故障に注 意してほしい。前後に扉がある箱罠は、二つとも使うと、それだけ 故障の確率が高くなる。片扉にして、使う方がいい。 ●どう掛けるか ―田畑の見える場所は禁物 箱罠を置いた日にすぐ、扉が閉まるようにセットしてはだめ。警 戒心の強い個体は、見慣れない箱罠になかなか近づかない。群れご と捕るには、焦らず、罠の中で遊ばせてから、扉が閉まるようにす る。 餌でおびき寄せる箱罠を、田畑の見える場所に置くのは禁物。餌 に誘われて近づいたイノシシが、米や野菜が実っている場所を覚え てしまう。 ●こんな時は 「ツキノワグマが掛かった」「罠だけでは作物の被害を防げな い」―。イノシシ対策の講演に行くと、よく聞かれる。高さ一メー トルの箱罠なら、屋根の真ん中に、直径三十~四十センチの穴を開 けておけば、クマはそこから逃げ出していく。 作物被害を防ぐには、田畑をトタン板や電気さくで囲い、罠は補 助的に使った方がいい。
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