特集・インタビュー
ホーム社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース
2003/4/22
遺伝子組み換え食品の安全性
肯定…食品総合研究所味覚機能研究室長 日野明寛氏
慎重…生協ひろしま常勤理事経営室統括室長 小泉信司

 遺伝子組み換え(GM)作物の表示制度が二〇〇一年四月にスタートして、今月で丸二年を迎えた。日本はGM作物の世界最大の輸入国。健康や環境への影響を不安に思う消費者は少なくない。日本農林規格(JAS)法に基づく表示についても、あいまいな点や、不十分さが残る。GMは安全との立場をとる国の研究機関の責任者と、消費者本位の表示に改めるべきと主張する生協の担当者にそれぞれに聞いた。
(編集委員・桑田信介)


 肯定…食品総合研究所味覚機能研究室長 日野明寛氏

 従来の育種技術の延長/計画的な品種改良、可能

 GM技術は従来の育種とどう違うのですか。
 従来の育種技術の延長上にある。私たちは昔から食料を確保し、食生活を豊かにするため自然界にある野生の生物を品種改良してきた。現在のパン小麦、種なしスイカなども交配による育種で生まれた。交配でも突然変異でも細胞の中で遺伝子組み換えの現象が起きている。

 ただ、細胞の中で何が変化したか分からない場合が多く、基本的には偶然性に頼っていた。その点、GM技術は導入する遺伝子の機能が分かっており、計画的な育種が可能だ。

 種の壁を超えることに批判があります。

 組み合わせにもよるが、理論的にはハエなどの病害に強い遺伝子を取り出し、作物に移すことも可能だ。地球上の生物は元々一つの種から進化した。「種の壁を超える」といっても、そう騒ぐほどのことはない。

 食べて大丈夫ですか。

 どんな食品も微量ながら何らかの有害成分を含んでいる。百パーセント安全な食品は、この世に一つもない。例えばトマトも毒性のアルカロイドがわずかに含まれている。成分だけなら、食べてはいけないが、一日に食べる量や栄養を考えれば、危険性よりも有益性の方が大きい。

 安全性はどう審査していますか。

 GM作物やそれを原料にした加工食品は、昨日まで食べてきた食品と同じくらいの安全性が科学的に担保されれば、食べて良いと判断できる。国はガイドライン(指針)を定め、厚生労働省が食品、農水省が栽培、飼料の安全性評価をそれぞれ行っている。この三つをクリアして商品化できる。百以上の審査項目に従って分析、評価する。

 併せて導入したタンパク質のアレルギー性もチェックする。現在の評価システムは世界中の科学者が考え出した。今までの知見を全部使っており、これ以上厳しいシステムはない。

 なぜGM作物が必要なのですか。

 米国にとって有用性を物語っている。農薬、化学肥料の大量使用で環境問題が深刻化しているからだ。畑を耕すと表面土壌が雨や風に流され、作物が育たなくなるという。大規模農業の型を崩さず、環境保全型へ転換を迫られているわけだが、畑を耕さない不耕起栽培に適したGM作物を選択するしかない状況だ。

 世界的にみても、農地が減り、水が足りない。爆発的な人口増加に対応し、食糧を増産するには単位当たりの収量を上げるしかない。GMはそのために必要不可欠な技術だ。農薬使用が、綿で三割、大豆で15―10%減ったという報告がある。

 日本の消費者にはメリットがありません。

 日本でもGM作物の研究が進んでいるが、今ひとつ商品価値がなく、唯一の成功は青色のカーネーション。米国に五年から十年は遅れている。病気や冷害に強いコシヒカリとかが開発できれば、消費者の理解も進むだろう。研究者は常に安全性評価という「出口」を考え、社会のニーズが何であるかを把握しながら研究することが大切だ。


 慎重…生協ひろしま常勤理事経営室統括室長 小泉信司

 油やしょうゆ、表示なし/消費者の不安点、説明を


 現行の表示制度のどこに問題がありますか。

 一番の問題は、消費者にメリットがない点だ。GM食品か、そうでない食品か、いずれかを選ぼうにも分かりにくい。昨年は表示義務化が進み、対象となる作物は大豆、トウモロコシなど五種類は変わらないが、加工食品数は二十四から三十に増えた。だが、大半の作物が原料として使われる食用油、しょうゆなどに表示義務が課せられていない。

 「組み換え」「組み換えでない」「組み換え不分別」の三通りの表示のうち、「組み換え」と書いた商品を目にしません。

 GM大豆の生産が75%を占める米国からの輸入が圧倒的に多いのに、おかしな話だ。食用油、しょうゆなどに表示義務がない理由を、国は製造過程でDNAが検出できないからと説明する。だが、原料に使われたかどうかは、流通、生産過程までたどっていけば分かることだ。

 「不分別」という表現も分かりにくいですね。

 組合員からも問い合わせが多い。米国では集荷した大豆をすべてカントリーエレベーターにごっちゃに詰めている。こうした流通の現状では、「不分別」の表示もある程度やむをえない。ただ、生協はミシガン、オハイオ州の農家と非GM大豆の栽培を契約し、GM大豆と混ざらないよう分別した独自の流通ルートを確保している。

 生協のGM作物・食品に対する基本的スタンスはどうですか。

 いいとか悪いとかでなく、国が安全であると言っているのが現段階なので、慎重に対応しようという姿勢だ。つまり、「どうしても食べたくない」という組合員がいるので、商品選択の権利を保証するため、JAS基準に上乗せした独自の表示制度を設けている。また非GM食品への要望があれば、その扱いを増やすよう努めている。

 生協独自の表示基準とはどんなものですか。

 JAS法では、加工食品の組み換え原料の重量比が上位四位以下、5%未満なら表示不要としているが、コープ商品は主原料、副原料に関係なく使っていれば表示する。食用油やしょうゆも、上位三位まで、5%以上の原料割合に限って「遺伝子組み換え」もしくは「不分別」と正直に表示している。

 独自基準による対象商品はどれくらいですか。

 約四千品目あるコープ商品のうち千五百品目ある。ところが、JAS法で表示を義務づけられている食品は、その中にまったく含まれていない。それぐらいJAS基準は、日常的な商品のほとんどが表示対象から外れていることだ。これでは表示の意味がない。

 安全性について国へどんな要望がありますか。

 GM食品を食べざるを得ない状況に日本が置かれているのは事実だが、最終判断するのは消費者。われわれは知りうる情報をすべて出していく。慢性毒性の評価がされていないことや、アレルギー誘発の恐れなど消費者の不安点をはっきりさせるのは国の責任だ。


 GM作物 16ヵ国に拡大

 GM作物は一九九六年、米国など四カ国、百七十万ヘクタールで商業栽培が始まった。毎年二けたの驚異的伸びを示し、二〇〇二年の作付けは、十六カ国、五千八百七十万ヘクタールに拡大した。除草剤や殺虫剤の散布が減り、作りやすいことなどが主な理由といわれる。

 国別では、米国が三千九百万ヘクタールでトップ。全世界の66%を占める。アルゼンチン千三百五十万ヘクタール、カナダ三百五十万ヘクタール、中国二百十万ヘクタールと続き、この上位四カ国で全体の99%を占める。二〇〇二年に新たに導入した国はインド、コロンビア、ホンジュラスの三カ国。消費者の拒否反応が強いヨーロッパでは、スペイン、ドイツなど四カ国で栽培している。

 作物別では、大豆三千六百万ヘクタール、トウモロコシ千二百十万ヘクタール、綿六百八十万ヘクタール、ナタネ三百万ヘクタール。大豆は大豆作付面積の51%となった。

 形質的には、特定の除草剤に枯れない遺伝子を組み込んだ除草剤耐性と、害虫の嫌がる毒素を分泌するたんぱく質を組み込んだ害虫抵抗性の二つに大別される。

 日本ではGM作物の商業栽培は行われていない。すべて輸入している。食品として国が安全性を認めたのは、大豆、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、油用の綿実の五作物、四十三品種。
 
map


視角

  企業の利益優先に危ぐ

 「食糧問題解決の切り札」。GM作物の開発企業の宣伝文句だが、額面通り受けとれない。「砂漠でも栽培可能」「塩害に強い新品種」…。光の部分をいくら強調されても、現実に並ぶ商品はおよそ理想とかけ離れているからだ。

 その主流は除草剤耐性の大豆、害虫抵抗性のトウモロコシ。しかも除草剤耐性は特定の農薬とセット販売だ。途上国の貧しい農民には手が届かないだろう。特許がついた種子の利用もがんじがらめだ。種子は人類共通の財産のはずなのに、企業の利益優先の仕組みに危ぐを覚える。

 一九六〇年代の「緑の革命」。最終的に失敗したといわれるが、公的研究機関で多収量に改良された麦と稲の種子が、事実上無償で途上国に提供され、多くの農民が恩恵に浴したのは事実だ。ただ、あの時代と今との大きな違いは、一握りの多国籍企業が世界農業を支配するアグリビジネスの台頭である。

 年間五百万トンに及ぶ日本の輸入大豆のほとんどは「GM大国」米国から。消費者は、いや応なくGM大豆を口にしている。伝統的加工食品の原料である大豆の自給率は、わずか5%。まずやるべきことは自給率回復である。 (桑田)

ひの・あきひろ 1957年横浜市生まれ。新潟大大学院農学研究科修士課程修了。83年農水省食品総合研究所入所。分子機能開発研究室長などを経て、2001年4月から現職。主著に「ぜひ知っておきたい遺伝子組換え農作物」。
    
 
 
こいずみ・しんじ 1959年呉市生まれ。酪農学園大卒。81年生協ひろしまに入る。コープ焼山店店長、店舗運営部統括マネジャー、事業部副本部長、常勤理事事業本部長などを経て、2003年1月から現職。

ホーム社説天風録地域ニュースカープ情報サンフレ情報スポーツ情報全国・世界のニュース