「分権時代」の自治の担い手を選ぶ統一地方選挙(十三、二十七日投開票)が繰り広げられている。国と地方を「対等」と位置付けた二〇〇〇年四月施行の分権一括法を契機に地方の自立を探る動きが活発化し、財政基盤や市町村合併について住民を巻き込んだ論議が盛り上がる中での選挙。地方から国を変える戦略作りを狙う北川正恭三重県知事の提唱で、既成政党に先駆けて公約の代わりに数値目標などを示すマニフェスト(政策綱領)を掲げる候補も各地に現れた。近く北川知事ら九人と「地域自立戦略会議」を設立する片山善博鳥取県知事と、十九人の知事連携で税源移譲を目指す「国と地方の税制を考える会」(座長・平松守彦大分県知事)の石井正弘岡山県知事に、分権推進への戦略を聞いた。(編集委員・小野浩二)
鳥取県知事 片山 義博氏
▼欠かせない政治の改革
国の補助金全廃すべき
―先の知事選は無投票再選でしたが、北川正恭三重県知事が提唱したマニフェスト的公約を準備しました。
マニフェストは政党が作るもので、個人の公約とは違うが、具体的政策を掲げる狙いはいいので取り入れた。「マニフェスト候補者連合」で国への対抗軸をつくり、地方新党を旗揚げするのではないかとの憶測もあった。個人的には、そんな気はまったくない。
―今月末、「地域自立戦略会議」を設立する狙いは。
あくまで「自立」をテーマにした勉強会。国に対抗する知事連合との思惑はない。昨夏から北川知事らと地方分権研究会や高速道路を考える会をつくったが、各分野ごとに関心のある知事が集まって勉強している。
―「改革派」知事の勉強会は、地方から国を変えようという取り組みと見られています。
国を変えるのは国会議員の役目。知事は外野で騒いでいるだけだ。ただ、国は地方の声の吸い上げ方が下手なのは確かだ。地方制度調査会も政府のやりたいことを追認する機関になり下がり、まったく意味がない。
―分権には政治力が必要との声もあります。
まず政党の改革をしなければいけない。候補者が自分で金を集めて選挙をしている限り、政治は良くならない。現状では良識ある人は誰も政治家になって国を変えてやろうとは思わない。
選挙資金は党で
―政党はどんな改革が必要ですか。
政策理念とマニフェストを掲げ、選挙資金はすべて党が集める仕組みにすべきだ。政治家が国民のための仕事に専念できるようになれば、人材も集まる。
―既成政党で、それができますか。
自民党や民主党などでは個人後援会をつくって金を集めないと政治家になれない。政党らしい政党は公明党と共産党だけ。自民党や民主党などもあんなふうになればいい。
―地方から政治を変える取り組みも必要では。
政治を変えるのは全国知事会の役目だが、知事会の中で、かなり温度差がある課題も多い。そういう場合は、同じ考えの知事が集まって対応を考えることも必要になる。
―分権一括法施行から三年。地方の自立には何が必要ですか。
財政の自立が重点課題だ。二期目は県の施策を細かく点検し、借金を半減したい。国は交付税の先食いをやめるべきだ。市町村合併などで交付税をアメに使っていると、地方財政は破たんする。自治体の連帯債務方式もやめ、先食いした自治体は自分のところの借金になる仕組みにすべきだ。
―地方への権限移譲は十分ですか。
国は国道など権限のある事業をきちんとやり、地方は補助金をもらわなくても県道や市町村道などを独自の裁量で直せるよう、権限をしっかり分けてほしい。その前に、国と地方が対等関係になったことを理解してない官僚の体質を変えることも必要だ。
―どうすれば国と地方の線引きができますか。
まず国が地方をコントロールする補助金を全廃すべきだ。交付税までなくすと東京都の一人勝ちになるので、補助金相当分を一般財源と交付税にしてもらいたい。
調整機能は必要
―交付税の財政調整機能はどうしますか。
地方同士の水平調整という意見もあるが、それでは収拾がつかない。国の調整機能は必要だ。国が調整の名目で、地方にハード事業や景気対策を優先するよう仕向けてきた点に問題がある。
―ソフト重視への転換をどう進めますか。
国のハードとソフトの事業費を五対五にすべきだ。ハードは優遇され過ぎている。こう言うと、こぞって反対するのは市町村だ。しかし、県民の間では賛成が多い。
―市町村合併については、どう考えますか。
規模が小さくて困っている町村が合併を望むなら合併したらいい。しかし、質が悪くて仕事ができてない市町村が、規模を拡大しても問題は解決しない。大切なのは、市町村が住民に目を向けた仕事をすることだ。
―市町村合併後をにらみ、都道府県再編の論議も始まっています。
道州制などで自治を広域化する必要性は、まったく感じない。鳥取県は狭くて困るという県民が多いなら考え直すが、そんな話は聞いたことがない。広域化すれば、自治が希薄になるだけだ。
岡山県知事 石井 正弘氏
▼税源移譲の実現へ連携
急がれるソフトの充実
―地方分権一括法の成果をどう見ますか。
都市計画関係の権限はかなり移譲されたが、農地関係は不十分で、構造特区も例外的にしか認めない。その仕組みを壊す必要がある。何よりも、「三位一体」の税源移譲が進まないのは問題だ。
―税源移譲はなぜ進まないのでしょう。
巨額の負債を抱えている財務省が、償還財源を手離すのは断固拒否という構図が根っこにある。政治に頼るしかない。国会議員は選挙公約に「分権」を掲げても、その場限りのことが多い。
―税財源移譲を実現するために、どんなことが必要と思いますか。
地方は連携して国会議員に「国か地方か」と決断を迫る働き掛けに力を入れるべきだ。「国と地方の税制を考える会」(座長・平松守彦大分県知事)をつくったのも、それが狙いの一つだ。この会は東京都独自の外形標準課税構想に対し、「全国的な税に」との提言をまとめ、国に実現させた。こういった形で地方から国を変える運動をしていく必要がある。
―会は、どんな税制改革を求めていますか。
国財源の所得税を地方財源の住民税にし、現在1%の消費税地方配分率の引き上げることなどを検討している。さらに、国の補助金を全廃し、その分を一括交付金にするか一般財源にしたい。
申請手続き負担
―補助金は、どこに問題がありますか。
まずは申請手続きだ。膨大な資料を作って国に説明に行き、小さなことまで国が口を出す。国土交通省は窓口を東京から広島の中国地方整備局に移したが、手続きはまったく変わっていない。
―知事になる以前は、旧建設省で補助金を付ける立場でした。
官僚はそのために仕事をしている。しかし、道路や河川など、何を重点的にやるかは地方が決めるべきだというのが持論だ。財源と同時に人材も地方に移せばいい。
―補助金はハード偏重との批判もあります。
今、地方に必要なのはソフトの充実で、岡山県の五カ年計画でもソフト重視を第一に掲げた。県の借金は多くの大規模ハード事業のためだ。知事に就任後、十七のハード事業を中止した。
―ハード事業はもう不要なのですか。
県道と同じルートで農道を作るなど縦割り行政の弊害が目立つ。ハードも必要なものは優先順位を付けてやるべきだが、事前評価システムを導入するなど思い切ってメスを入れねばならない。
―補助金とともに改革が求められている交付税はどう考えますか。
交付税を廃止して自治体が自主財源でやっていくことにすると、増収になるのは東京都だけ。他の自治体の財政基盤を保障する調整機能の扱いが最も難しい。交付税の水平調整を担う第三者機関を作り、地方同士で調整すべきだ。国が調整機能を担うと、地方は「もらう」ということで上下関係ができてしまう。
―徴税業務については、どうですか。
ドイツでは地方がすべて徴税し、外交や防衛などの費用を国に上納している。これこそ究極の分権だ。ただ、現実問題として国税局には専門職員が多く、彼らを自治体に移すような大胆な改革をしないと実現できない。岡山県が研究している道州制が実現すれば、国の人材も移りやすくなる。
近隣の仲に問題
―道州制については、地方でも賛否が分かれています。
「岡山は州都がほしいから道州制を提唱している」との声があるなど、近隣の自治体は仲が悪い例が多い。分権が進まないのは、そこに問題がある。全国知事会も最近は意見が合わないことが多い。国はそれを見越して模様眺めをしている。
―国の地方制度調査会(諸井虔会長)では、どんな発言をしてますか。
知事会副会長の肩書で参加しているので個人的意見は言いにくいが、いずれは都道府県合併や道州制、連邦制の議論になる。まずは、都道府県合併の複雑な手続きを改正してはどうかという議論が出ている。
―市町村合併については、どう考えますか。
市町村は全体的に見ると、税収の二倍の支出をしている。そんな状態がいつまでも続くわけがない。行政需要も環境対策や情報化など専門職員が必要になっている。しかし、現状は市町村や住民に「国や県が何とかしてくれる」という甘えがある。厳しい財政状況を十分に周知すべきだ。
「自主・自立」へ結束を
高度経済成長期の地方政策をリードした全国総合開発計画の理念「国土の均衡ある発展」という言葉を耳にしなくなって久しい。
全総計画の中核を担った道路や空港などハード整備は、とりあえず一段落。地方が環境や福祉などのソフトに比重を移し、より個性ある地域づくりに力を入れ始めた姿勢を反映している。
さらに、二〇〇〇年四月に施行された地方分権一括法は、地方の「自主・自立」を求めた。ところが、国から地方への税源移譲は進まず、自主財源で自治を賄える東京都を除いて、各道府県は地域間競争を加速。「平成の大合併」も地域による温度差が大きく、全国知事会など地方六団体は、いずれも内部の足並みがそろいにくくなってきた。
こうした中、数年前から税制や分権、森林、公共事業、高速道路などをテーマにした知事連携の勉強会が相次いで発足。情報公開の徹底など「改革」の取り組みに積極的な片山鳥取県知事や、膨大な借金を抱えた県財政の立て直しに成果を挙げつつある石井岡山県知事が、それぞれの立場で連携組織に参加するのは自然の流れでもある。
しかし、両知事ともインタビューで指摘したように、自治の枠組みや税源移譲を最終的に決めるのは「政治」の舞台。地方が「総論賛成、各論反対」を続ける限り、政治は結論を先送りし続ける。
厳しい財政難に直面する地方にとって当面、小泉純一郎首相が提唱する補助金、交付税、税源配分の「三位一体」改革を実現することが急務。今こそ、地方が各種知事連携から生まれた知恵を持ち寄り、総合的な分権戦略を確立すべき時期ではないだろうか。(小野)
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