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2003/06/01
ユニクロ復活は  ファーストリテイリング社長 玉塚元一氏に聞く

商品力の強化に手応え

 「ユニクロ方式」と呼ばれる中国での大量生産を確立し、カジュアル衣料業界を席けんしたファーストリテイリング(山口市)に異変が起きている。デフレ経済の下で数少ない勝ち組だったが、昨年八月期に一九九四年の上場以来、初めての減収減益に転じ、今期もその流れが続いている。ユニクロは再び成長軌道に乗れるのか―。昨年十一月に柳井正氏(54)=現会長=からバトンタッチした玉塚元一社長(41)に聞いた。

(編集委員・宮田俊範)

 ▽失敗の教訓 消費者の期待に沿う

 ―二〇〇一年八月期をピークに売り上げの減少が止まりません。

 急成長していた時、とにかく需要に追いつこうとみんなで中国を駆けずり回り、商品をそろえることで精いっぱいだった。だからお客さまが来店しても欠品だらけになり、本当に消費者が求める商品も開発できていなかった。結果としてすごくマンネリ化し、消費者離れが起きてしまった。

 ―英国進出も八月をめどに十六店閉鎖し、五店へ縮小します。

 これも急成長の中で実行された出店で、やり方に間違いがあった。一番大きな誤りは、最初から三年間で五十店出すと決めていたこと。新しい国では、まず一店舗で商売しても、商品や人事、物流とかいろいろ予想されない問題が起きる。ぼくらのようなチェーン店では、個々の店の利益が積み上がらないといけないわけで、最初から拡大ありきではいけなかった。

 ―失敗の教訓はいろいろ多いですね。

 その通り。ただし、その一方で一千億円から二千億円、そして四千億円へと倍々で売り上げが増えたブームにより、ユニクロブランドを日本中に知ってもらえた。カジュアル衣料の市場で今のトップポジションが獲得できたことも、すごく意義あることだ。

 だから今春の商戦でも消費者からこんなものを作ったら買うのにとか、もっとこうしてよ、といったたくさんのメールが寄せられた。こうした期待は高い。その期待を超えるぐらい価値ある商品を作れば、まだまだ成長するポテンシャルはある。だからもう一度、自分の会社を見つめなおして基礎体力をつくる。それが今期の目標だ。

 ―具体的には。

 商品力の強化と全国六百店舗でその商品を売り切る力、経営などインフラ機能の強化という三つの課題を解決し、実行しなければならない。そして今期は三千億円の売り上げを絶対に確保して、14、15%の利益が出るコスト構造を作る必要がある。その手応えはつかみつつある。

 ―そのカギとなるのが商品力。これまでと方針を転換するのですか。

 いや、あくまでユニクロに期待されているのは生活密着商品であり、これまでと同様、表面的なファッションを追うつもりはない。シーズンごとに新商品を出していくが、ぼくらが的確にとらえたいのはマスファッションであって、スケールメリットを生かして素材メーカーとタイアップし、普通じゃ考えられないような脅威的な素材を使ったベーシック商品を作っていく。

 ▽40代で社長 経営 やりながら体得

 ―四十歳で社長就任とその若さに全国から注目が集まりました。  経営には年齢はまったく関係ない。経営はすごく情熱とエネルギーを要する仕事であり、絶対にこの会社を率いるんだというエネルギーさえ持てれば、三十代だろうと六十代だろうと構わない。ただし、社長としては全方位的な課題に取り組まないといけないし、その問題の大きさと責任の重さは痛感している。

 ―ローソンなど全国的にも四十歳前後での社長就任が増えています。

 日産自動車のカルロス・ゴーン社長もよく言っているが、経営はスポーツと同じようなもので、やりながらじゃないと体得できない。だから六十歳でその機会を与えられても、体得した時に七十歳になっていたのでは先が短い。もっと三十代後半から四十代のうちに経験を積むべきだ。

 ―柳井会長とは役割をどう分担していますか。

 この難しい局面から継続的な成長軌道へと戻さなければならないから、役員、執行役員でチームを組み、ぼくがリーダーとしてやっていく体制になった。そこで決めたことは柳井さんに相談し、大きな視点から軌道修正してもらっている。

 ―それは経営と資本の分離ということですね。

 将来的にそうなるための一手だろう。柳井さんは大株主でもあるし、その管理監督の下で執行するプレーヤーとしての責任者がぼく。みんなの力を合わせることで、最高の結果を出していく。

 ―そのためには人材育成が要になりますね。

 六百店で商品を売り切るためには、特に一店ごとの店長の力が大事。店長の能力によって店の売り上げや利益に驚くほど差が出るし、今は三十人ぐらいしかいないスーパースター店長を全店の半分ぐらいに増やすのが目標。そのために山口市の本社にユニクロ大学を設け、店長教育に努めている。

 ―どんな会社づくりを目指しますか。

 まず三カ年計画として再来年にもう一度、売り上げを四千五百億円まで戻す。出店も十万人を超える商圏がたくさん残っているし、千店ぐらいが目標だ。昨年秋から始めたベビーやウィメンズ商品を置くため、店舗も広げないといけない。

 そして今、視野に入れているのが二〇一〇年。その時までにユニクロを世界ブランドにしておかないと、日本でも勝ち残れないという危機感があるからだ。国内ではほかにも農業などポテンシャルのある市場がたくさん残っているから、ぼくらが手掛けている製造小売りの手法を使って新しい商売の種を作り、グループとしてさまざまな価値も創造していきたい。


 ラガーマンらしさ 持ち味

 長身に甘いマスク―。「ユニクロ」を代表する顔は、カリスマ的経営者として知られた柳井氏の小柄で眼光鋭い風ぼうから、一八〇度イメージチェンジした。持ち味もラガーマンならではのチームプレー精神とリーダーシップにあり、インタビューの端々にそうした言葉が口をつくのが印象的だった。売り場では、四月の来店客数が前年同月を上回るなど回復の兆しが徐々に見え始めている。後は本番の秋冬物商戦でどんな手を打つか。新しい「ユニクロ」の顔の手腕が問われる。

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「2010年までにユニクロを世界ブランドにしておかないと、日本でも勝ち残れない」と語る玉塚氏
≪プロフィル≫ たまつか・げんいち 1985年慶応大法学部を卒業後、旭硝子入社。米国留学でMBA(経営学修士号)を取得し、98年8月に日本IBMに転職。同年12月からファーストリテイリングに移り、常務などを経て昨年11月から現職。東京都出身。慶応大在学中はラグビー部で活躍した。 

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