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2003/06/15
バイオマス利用 資源豊富な中山間地域 
島根大生物資源科学部 小池浩一助教授に聞く

太陽光・風力より安価

 再生可能で環境にやさしいバイオマスのエネルギー利用が世界的に注目されている。わが国政府も昨年、ようやく「新エネルギー」に認定し、国家戦略「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定した。温暖化防止をはじめ、循環型社会の構築、中山間地域活性化などの「切り札」として期待が膨らむ。バイオマス先進地帯の北欧の事情に詳しい小池浩一郎・島根大生物資源科学部助教授(50)に、定着へ向けて何がカギとなるかを聞いた。

(編集委員・桑田信介)

 ▽自治体主導で普及図れ

 −木質バイオマスにはどんなものがあり、その特質は。

 大きく言えば、ひとつは加工された木材の副産物。代表的なものは製材所や家具工場で発生する背板、オガクズなどだ。もうひとつは山から切り出す木に付いている先端部や枝など。木の三分の一は山に置き、三分の二は丸太で持ち出している。木材をうまく使うシステムができている国や地域では、半分が製品になり、半分がエネルギーに利用されている。だが、日本では多くの製材所がエネルギー利用せず焼却炉で燃やしている。

 −収集、運搬に手間がかかるのがネックのひとつといわれますが。

 加工部門から出るバイオマスは乾燥機にかけられ、既に集積されている点でも使いやすい燃料だ。ただ山から出るバイオマスは集めて、エネルギー利用する所まで運ばなくてはいけない。かさばるうえ、樹皮や葉っぱを含むので水分が多い難点がある。

■ □ ■

 −バイオマスは大気中の二酸化炭素を増やさない。

 化石燃料は燃やすと正味、大気圏の二酸化炭素を増やす。これに対して、バイオマスを燃やして発生した二酸化炭素は、植物が育つ時に光合成によって大気中から吸収したもので、いったんため込んだ二酸化炭素を再び戻しただけ。二酸化炭素の総量を増やさないカーボンニュートラル(炭素中立)な燃料だ。石油や石炭をバイオマスに置き換えていけば、その分、化石燃料の消費が抑えられるので、温暖化防止に貢献する。そのほかバイオマスは硫黄分排出も非常に少ない。

 −同じ自然エネルギーである太陽光や風力発電と比べたメリットは。

 バイオマスの方が総じてコストが安い。エネルギー変換装置の価格でみると、太陽光はキロワット当たり百万円程度に対して、バイオマス用ボイラーは一万五千円から二万円。風力は、風が吹かないと、投資がもったいない。立地のいい所は国立公園内の岬などに限られる。さらに太陽光や風力は、雨や曇り、風の吹き方といった自然条件にも左右される。その点、バイオマスはどこでも、常時稼働できるメリットがある。何よりも太陽光や風力は電力にしかならないが、バイオマスは電力と熱を同時供給できる強みがある。

 −そのコジェネレーションでカギとなるのは。

 大規模なコジェネは蒸気タービンを回して電気をつくり、その廃熱を利用する。だが小規模なものは効率が悪い。コジェネで難しい点は、電気は自由化され、接続されていれば売れるが、熱を大量に買ってくれるショッピングセンターや病院などが近くにあるとか、地域暖房システムのインフラが整っていることが必要。「熱のはけ口」をいかに見つけるかがカギだ。

 −欧州でバイオマス利用が進んだ背景は。

 地方分権が進んだことが大きい。もともとバイオマス資源は分散しており、大規模な方式は無理だ。小規模・分散型の方式は自治体に向いている。スウェーデンでは、地域にとって必要なことは自治体がやる考え方が定着している。環境に良い画期的なプロジェクトの道筋をつけたのは、国際機関でも政府でもない。やる気のある自治体が取り組んだ結果だ。エネルギーは「お上がやるもの」と頭から思っている日本と大きな違いだ。

 −バイオマス利用は、まだ歴史が浅いのですね。

 スウェーデンでは現在、一次エネルギーの20%をバイオマスで賄っている。契機は第二次オイルショック。暖房燃料を石油に百パーセント頼っていては、えらいことになると、周りを見渡したら、豊富な森林資源があった。取り組みだしたのは一九八〇年代からだ。

■ □ ■

 −過疎高齢化に悩む中国山地で救世主になれますか。

 中国地方は瀬戸内沿岸部を除き、バイオマス資源を持っている。全国と比べて山地の奥行きが浅く、山もそう険しくない。東北地方は山に入ると、どんどん人家が減る。ところが、こちらは峠を越えても次の盆地に出る。森林へのアクセスも良い。こまめに間伐し、木材を出すことができる。

 −どんな規模、技術の導入がふさわしいですか。

 最初は、町村役場や県の出先機関に熱供給の小型ボイラーを入れる。余力があって周辺民家が希望すれば、パイプを伸ばして次第に供給エリアを広げていく。特に独居や高齢者夫婦だけの世帯にとって、安全で快適な暖房は循環器系などの病気予防や火災防止にもなる。今ある重油ボイラーを置き換えるだけで、大した投資ではない。パイプが伸ばせないところの民家にはペレットストーブを使ってもらう。

 −定着へ向けてクリアすべき大きな課題は。

 一部の事業は採算が見込まれるが、拡大していくには、北欧のように環境税や炭素税などの導入が必要だろう。一方、自治体や地域社会はバイオマス資源を生かす自助努力を払わなければならない。補助金漬けで何もしなくても中央からカネが来る、そういう依存構造にならされてきた頭を切り替えないといけない。ど真ん中の絶好球を、みすみす見逃して三振しているようなものだ。

 《メモ》バイオマスが、風力や太陽光などの「新エネルギー」に追加されたのは02年1月。地球温暖化の防止、循環型社会の形成などの観点から、国は同年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定。今年4月には「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)により、電力会社に販売電力量の一定割合をバイオマス、風力、太陽光などの再生可能・自然エネルギーで賄うよう義務付けた。


 熱パイプ埋設 公共事業で

 食と農の分野でしばしば使われる「地産地消」という言葉が最近、エネルギーの世界にも登場するようになった。このエネルギーはもちろんバイオマスである。

 国土の三分の二を森林が覆う日本。バイオマス資源の自給は十二分に可能だ。国産材の比率が二割を切り、森林が荒廃する中、エネルギーの地産地消が国産材の消費拡大につながれば、林業再生も夢ではない。

 わが国の温暖化対策でバイオマス利用の地域コジェネレーションが進まないのは、政府やエネルギー関係者が、冬以外は熱をほとんど使わない、熱パイプの埋設費を考えたら事業化は難しいと考えているためらしい。

 それなら水道、下水管のように、熱パイプも自治体の公共事業で敷設できないか。一般の公共事業の減少にあえぐ中山間地域で新しい公共事業をつくる。雇用対策とセットの温暖化対策があってもいい。(桑田)

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「自治体や地域社会はバイオマス資源を生かす自助努力を払わなければならない」
≪プロフィル≫ こいけ・こういちろう 1952年、徳島県生まれ。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。林政総合調査研究所研究員を経て、95年から現職。木質バイオマス利用研究会会員。専門は森林科学。主編著に「森林資源勘定」。  

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