「政権交代可能な二大政党制」を狙う小選挙区比例代表並立制が導入されて三度目となった先の衆院選。自民、民主党の二大勢力は差が縮まった半面、共産、社民、保守新党など少数政党は大きく後退した。マニフェスト(政権公約)など政策をもとに、有権者が「政党」本位で政権を選ぶ二大政党制が真に実現するためには、今後どんな課題があるだろうか―。今回の衆院選を機に引退した谷川和穂(元自民・比例中国)、中桐伸五(元民主・同)の両氏に展望と注文を聞いた。
(編集委員・小野浩二)
▼谷川和穂氏(元自民・比例中国)
党の官僚依存改めて/民主と連携しまず改憲図れ
―「政権選択選挙」と言われた衆院選ですが、結果をどうみますか。
小選挙区導入の成果がようやく表れ、民主党の躍進で二大政党制に近づいた。欧米でも政権交代は当たり前。基本的に、わが国の政治にとって好ましい方向だ。
―自民党は小泉純一郎首相の人気とは裏腹に、伸び悩みました。
有権者意識は大きく変わりつつある。一九五五年の保守合同で自民党が誕生した最大要因である東西冷戦構造が崩れ、党の存在意義は薄れて、長期低落傾向にある。小泉首相の人気に頼るのでなく、官僚依存の体質を改め、個人後援会中心の組織を見直さないと、時代に対応できない。
―民主党のマニフェストに対し、自民党は政権公約を発表しました。
政策本位の選挙は結構だが、自民は民主に挑発されて仕方なく一部に数値目標などを盛り込んだ感じ。年金問題をはじめ具体策が少なく、官僚依存体質を反映している。しかも、党の政務調査会など正規機関の議論とはまったく別物。公約と正反対の政策を訴える候補もいるなど、有権者に信用されにくかった。
―「政党」を選ぶ選挙という点の評価は。
小選挙区は、候補を選べば必然的に「政党」を選ぶことになる仕組み。ただ、自民党は中選挙区制の名残で、小選挙区支部が旧来の個人後援会中心の組織になっている。候補決定の公平性などを考えると、議員が支部長を務めるのは禁じた方がいい。比例代表の候補名簿にしても、順位の選考過程などをもっとオープンにするべきだ。
―比例代表の制度は、どう評価しますか。
比例代表を中心に議席を得る公明などの政党があり、真の二大政党制は実現しにくい。また、そうした政党が政権離脱すれば、有権者の審判を経ずに政権が交代する事態もありうる。比例代表はもともと、小選挙区導入のための暫定措置という位置付け。十年後をめどに見直す予定だったが、制度改正にはもう少し時間がかかるかも。
―今後、自民と民主の対立軸は何でしょう。
「大きい政府」と「小さい政府」などいくつか想定されるが、その前に当面は、両党が連携して憲法改正に取り組むべき時期だ。民主が政権奪取だけを考えるようだとスキャンダル合戦になり、短期政権になるのでは。長期的視点で、国の政策を競い合ってほしい。
―自民党の七十三歳定年制について意見は。
若返り自体は歓迎すべきことだ。ただ、中曽根康弘元首相に対する小泉首相の対応など問題もあり、旧来の党員の反発を招いた面もある。また、引退基準だけでなく、新人候補の選定過程もルール化する必要がある。女性候補の積極的登用や、予備選導入などを検討してもらいたい。
▼中桐伸五氏(元民主・比例中国)
地方組織の整備急げ/「比例」見直し衆参同時選に
―民主党は改選前に比べて四十議席増え、百七十七議席を得ました。
予想を上回る躍進だ。民主党は小沢一郎氏ら旧自由党勢力を加え、マニフェストで政策論争を仕掛け、菅直人代表が「私を首相に」と熱く呼び掛けた。有権者に「政権選択」の意識が芽生え始めたのだろう。ただ、「政権選択」の実現性という点では、多くの課題が残っているのが実態だ。
―具体的に、どんな課題がありますか。
最も重要なのは、二大政党制に近づくため民主党がどれだけ議席を伸ばすかという点ではない。いかにして「政権交代」を実現するかという点だったはずだ。選挙前、民主党単独政権は考えにくい状況にありながら、社民党などとの連立構想を打ち出せなかったのは残念だ。イタリアで多数の小政党連合が政権交代を実現した「オリーブの木」のような、野党側の連立構想を示すべきだった。
―二大政党制でなくてもいいと考えますか。
いずれはその方向に進むべきだが、現状は公明など比例代表中心の政党が一定の議席を確保し、完全な二大政党制は実現しにくい。また、仮に民主党が衆院で単独過半数を得ても、参院とのねじれ現象が起き、政権運営は困難だ。真に二大政党制を目指すなら比例代表を見直し、衆参同時選挙を定例化すべきだ。
―民主党単独政権の実現には、何が必要でしょう。
地方で個人後援会中心の自民も問題だが、民主はそれ以上に地方組織が未整備で地方議員も少ない。マニフェストや新人候補の選定も一部の党幹部の間で決まり、全国的な実態を反映しているとは言いがたい。市町村単位で支部を常設し、「政党政治」の体制づくりを進める必要がある。
―民主党はマニフェストで地方分権の推進を強調しました。
小泉首相が道路公団と郵政の民営化ばかり言うので、分権が大きな争点にならなかったのは残念だ。福祉や環境重視の分権推進か、市場原理重視の中央集権存続かという点は、民主と自民の大きな対立軸になるはずだ。確かに、税源移譲など分権の仕組みは複雑だが、もっと粘り強く有権者に訴えるべきだった。
―史上二番目に低い投票率を記録した点は、どう受け止めますか。
「五五年体制」を支えた旧社会党と自民党が結託して村山富市政権を誕生させて以来、有権者が政治に不信感を抱くようになった点は見逃せない。民主、自民の両党は、政策本位の「政党政治」を地方レベルも含めて再構築する必要がある。さらに、政党連合や衆参両院の選挙制度見直しで「政権選択」の実現性を高めること。「自分の一票が政権を変える」と本気で思えば、有権者はもっと投票に行く。
政治の緊張感高まれば
十年前に自民党単独政権の「五五年体制」が崩壊して以来、各政党は連立政権という枠組みの中で「政党政治」の在り方を模索しながら離合集散を繰り返してきた。「政治改革」のシンボルとして、政権交代可能な二大政党制を目指して導入された小選挙区比例代表並立制も、今秋の選挙で三回目。選挙結果は自民、民主両党の二大勢力が接近し、ようやく当初の狙いに手が届くところまできた感がある。
谷川、中桐の両氏が指摘するように、「人」を選ぶ色彩が濃かった中選挙区制の名残はあるが、マニフェスト導入などを機に政策本位で「政党」を選ぶ方向性に拍車が掛かり始めたのは確かだ。「政権交代」の緊張感がさらに高まってこそ政治の透明性は向上し、有権者の信頼回復にもつながるだろう。(小野)
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たにかわかずお 亡父の地盤を継承し、1958年衆院選で旧広島2区から初当選。以来、3回の落選を挟んで12期務め、防衛庁長官や法相などを歴任した。最近2期は比例代表。自民党の73歳定年制導入に伴い、引退した。73歳。
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なかぎりしんご 自治労顧問医師を経て、1996年衆院選に岡山2区から立候補。比例代表で初当選した。2000年衆院選は落選したが、03年8月に山田敏雅氏の議員辞職に伴い繰り上げ当選。今回の衆院選は、若手に譲った。60歳。
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