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2003/11/30
どうなる年金制度改革 経済同友会代表幹事 北城恪太郎氏に聞く

抜本策欠く厚労省案

 厚生労働省が今月十七日に示した年金制度改革案への反対論が経済界で広がっている。厚労省案では雇用コストの上昇によって経済活力をそぎ、国際競争力を低下させる恐れがあるとの理由からだ。先進国でも例を見ないほど少子高齢化が急速に進む中、現役世代の負担感は増すばかり。持続可能な年金制度にするための抜本改革を主張する経済同友会の北城恪太郎代表幹事(59)に、その狙いを聞いた。

(東京支社・村上昭徳)

 消費税財源で負担平等

 ―同友会はなぜ厚労省案に反対なのですか。

 現在の年金制度が明らかに持続可能でないのに、存続させるための抜本改革に触れずに、厚生年金の負担増だけを焦点に議論するのは問題ありということだ。国民年金に関しては、本来加入すべき37%あまりの人が加入していない。これでは受給者増に対応できるはずがない。

 ―二十代を中心にした若い層の未加入が目立っていますね。

 それが問題を深刻化させている。若い人に限定すれば、ほぼ半数が加入していない。年金を払っていない以上、将来、彼らは無年金ということになる。場合によっては生活保護が必要になり、結果的に税金の負担増につながるかもしれない。現役世代として将来の年金制度を支える若者の半分が加入していない制度は、維持可能なものとは言えないということだ。

 若者の信頼ない

 ―なぜ未加入の若者が増えるのでしょうか。

 現役世代には過度に負担するのに、将来像が見えないといった不安がまずある。将来を担う若い人たちが信頼していない制度をそのまま維持していくことが正しい方法なのか。今、抜本改革をしないと政府の試算は破綻(はたん)し、社会保険制度そのものにも影響を与えかねない。どの世代も等しく負担する持続可能な年金制度への変更が必要だ。

 ―その抜本改革案が、消費税を財源にした新制度の提唱ですね。

 世代間の不公平感を払拭(ふっしょく)するために、消費税を財源にする。老後の最低限の生活を保障する基礎年金制度を二〇一〇年度までに導入し、厚生年金の報酬比例部分は自分で加入する私的年金にする。年金目的の消費税率は9%を見込むが、情報開示すれば国民の理解は得られると思う。他国に例を見ない少子高齢化社会に向けて、肥大化した公的年金システムは速やかに見直さねばならない。抜本改革を抜きに負担増だけを議論するのはおかしい。景気に対する懸念材料でしかない。

 実質は賃金課税

 ―厚労省案の厚生年金保険料の引き上げへの反対が強いようですが。

 厚生年金は強制加入で、実質的には賃金課税といえる。労使折半のため、保険料が引き上げられれば、雇用コストは当然増える。年収に占める負担率を大幅に引き上げれば、企業の収益を圧迫する要因になる。企業としては新規出店や設備投資を抑えたりするだろう。労働条件の調整や新規雇用の抑制があるかもしれず、大企業や日本を支える中小企業への悪影響も必至だ。

 短期的には、それだけで事業の海外移転が起こるとは考えにくいが、長期的に見れば産業の立地にも影響する。企業の経費増は国際競争力の観点で、マイナスではないか。日本経済全体に深刻な影響を与えかねない。労働者、企業の活力をそぐことになりはしないか、強い懸念がある。

 国民負担率が鍵

 ―同友会の改革案では、年金だけでなく医療費などを含めた国民負担率に注目すべきだと指摘していますね。

 長期的な国民負担率をどれぐらいの水準に抑えるのか吟味する必要がある。それに応じて財政規模も決まって来るのだから当然想定すべきだ。国は、税・財政・社会保障全体を含めた改革案を国民に示す必要がある。当面の改革として、基礎年金の国庫負担割合を二分の一にするための道筋を明確にすべきだ。大きな全体像を見せずに年金だけを議論することには問題がある。

 ―経済界では、政府が実現を目指している六十五歳定年の義務化になぜ反対するのですか。

 個人的には、六十五歳にこだわることはないと思う。ただ大半の企業では、定年間際になっても給料が毎年上がっていく仕組みで、本人の同意がない限り、給料を下げる不利益変更ができない。法整備を進めずに定年延長だけをすると、若者の雇用の機会が減ったり、国際競争力がダウンする。負担に耐えられない企業の淘汰(とうた)につながるかもしれない。経済の活性化という意味でも看過できない問題だ。

 ―年金受給年齢が六十五歳に段階的に引き上げられる以上、高齢者の雇用確保は必要ではないですか。

 年齢にかかわらず、働きたい人が働ける条件は必要だ。ただ年を取った人が仕事以上の給料をもらえる仕組みのまま、雇用を延長できるほど企業の環境は甘くない。その方法を含めて定年延長は各企業の判断に任せるのが筋であって、国が一律に決めるべきではない。


 雇用延長確保が表裏一体の課題

 北城氏の言葉を借りるまでもなく、厚生労働省の年金制度改革案にはどうも合点がいかない。現役世代の過重な負担感がぬぐいきれず、財源の安定的な確保という根本的な問題への対応が抜け落ちているからだ。

 改革案には、世代間の不公平感が依然として残るし、勤労意欲をそぐのも事実。また国民年金の未加入者の負担分を強制的ともいえる厚生年金で賄う仕組みともいえるだけに、持続可能な制度とは思えない。北城氏が言うように、政府は社会保障費全体の国民負担率を開示する義務があるだろう。

 年金制度改革は高齢化に伴う雇用延長と表裏一体の関係にある。六十歳定年のもとで年金受給資格を得られるまでの間、雇用をどう確保するのか。義務化に反対する以上、社会的責任を担うべき経済界として、どう企業の対応を促すかという指導力が問われている。

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「定年延長はそれぞれの企業の判断に任せるべきだ」と語る北城氏(東京都千代田区、日本工業倶楽部別館の同友会)
きたしろ・かくたろう 1967年慶応大工学部を卒業し、日本アイ・ビー・エム入社。72年カリフォルニア大大学院(バークレー校)修士課程修了。副社長を経て93年1月社長。99年12月から会長。2003年4月、全額出資の外資系企業で初めて経済同友会代表幹事に就任した。日本郵政公社理事、関税・外国為替等審議会委員、日本取締役協会副会長なども務める。東京都出身。
 厚生労働省の年金制度改革案の骨子 厚生年金の保険料は、現在年収の13・58%(労使折半)だが、来年10月から段階的に引き上げ、2022年度以降は20%に固定する。給付水準は現在の現役世代の手取り賃金の平均59・4%から徐々に下げるが、年金積立金の取り崩しなどにより、50%から50%台半ば程度を確保し、下限を50%とする。
 基礎年金の国庫負担の割合は三分の一から二分の一に引き上げる。短時間労働者の厚生年金加入基準も労働時間週30時間以上から週20時間以上に拡大する。この案を基に年末に年金改革案を決定。来年1月に始まる通常国会に関連法案が提出されるが、改革案には自民党内でも反対論がある。経済同友会と日本経団連、日本商工会議所、関西経済連合会は18日、改革案に反対する共同声明を発表した。

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