税源移譲 しっかりと
今や、国と地方の関係を財政面で見直す三位一体改革が正念場を迎えた。構造改革の一環として推進したい政府が、地方六団体に改革案の提示を要請。国の補助・負担金を三・二兆円減らし、税源移譲する案が出された。しかし、各省庁や族議員は猛反発。政府は遅くとも今月中に結論を示す方針だが、行方は不透明だ。三位一体改革の検証を続けている地方自治総合研究所の高木健二研究員に、改革の核心を聞いた。
(東京支社・木原慎二)
交付税には重い役割 住民自治 拡大してこそ
―三位一体改革を分かりやすくとらえるポイントは。
無駄な公共事業をなくそう、そのためには住民に身近な自治体の決定権を強めよう、という改革といえる。
財政的には、国税で賄っている国から地方への補助・負担金を廃止し、その分を地方税として自治体に税源移譲する仕組み。地方税、つまり自主的に住民から集めたお金で仕事をするように変われば、受益と負担の関係が明確になり、住民による監視がしやすくなる。
なぜ国の補助金で公共事業をすると、無駄が出るのか。自治体にとって補助事業を採用すれば、財源の数割が国からもらえる。残りのお金さえ調達できれば事業が実施できるので、安易に優先してしまう。地域にとっての緊急性、必要性は二の次になっている。
しかし、国の補助金といっても、税金であることは同じ。補助金に頼れば得をしたような「財政錯覚」を起こすけれど、本当は無駄な公共事業を生んで、借金を増やす構造だ。
―補助金廃止には官僚の抵抗が激しいですね。
補助事業をどの地方で実施するか、規模はどの程度か、優先順位は…といった権限を官僚が握っている。廃止されれば官僚の仕事の柱の一つがなくなる。さらに省庁間の省益争いが絡み、抵抗の大きな力になっている。
省庁の主張は建前
各省庁が主張している「国の責任」「行政の統一性」は、建前に聞こえる。地方分権は散々議論し、二〇〇〇年に分権一括法が施行されたように決着済みの話。十年前に戻った主張を持ち出すことこそ不自然だ。
―補助金廃止、税源移譲に並び、三位一体改革の柱である交付税の見直しも、焦点です。
財政再建を急ぐ財務省にとっては、交付税を減らすのが最大の目的。しかし、交付税とは何かをしっかり住民の視点で確認しておく必要がある。
交付税は、国が、自治体サービスはこれくらいでやって下さい―という最低水準を提示し、足りない財源については面倒を見る仕組み。全国どこに行っても警察、義務教育、消防などが一定水準で受けられるナショナルミニマムを保障する制度だ。
なのに財務省は、自治体が交付税を無駄遣いしている、という確証のないさまつな例を挙げて七、八兆円の大幅削減を掲げ、三位一体改革を余計に複雑にしている。
国民の理解を得て
交付税の見直しは議論されてもいい。ただ、順序として、補助金廃止と税源移譲がしっかり達成されてから。その場合でも、サービス水準を落とすことを国会で議論し、国民の理解を得るのが筋だ。
―国と地方の協議が大詰めです。遅くとも月内に出る結論をどう評価すればいいですか。
「六団体案」が焦点
論点が多く、難しい問題も含むなか、政府が六団体案を認めれば前進といえる。政府は、経常的経費の補助金は全額を地方に税源移譲し、投資的経費の補助金も八割を移譲することを閣議決定している。だから三・二兆円の補助金廃止項目を示した六団体案が認められれば、税源移譲は確実に実行されるはずだ。逆に六団体案が崩れれば、国が地方をコントロールする体制の温存になる。
―最後に三位一体改革のあるべき姿を。
国と地方の財源の奪い合い、別の言い方をすればお役人同士の話にとどめてはならない。地方への税源移譲が進めば、将来的には、首長が、地方税率のアップを前提に、公共事業の実施を提案することも想定される。その場合、これまで以上に地方議会の役割が問われるのは当然にしても、住民が主体的に判断できる道を開くことが重要になる。住民投票は有効な手法の一つ。地方税率や必要な公共事業を住民主導で選択できる時代にしなくてはならない。
三位一体改革の真の成否は、住民自治を拡大できるかどうかで決まる。まずは、自分の税金がどう使われているのか関心をもってほしい。
分権は時代の流れ
地方分権一括法が二〇〇〇年に施行され、地域では着実に市町村合併が進む現状から、分権が時代の潮流になった実感はある。
だが、三位一体改革をめぐる国と地方の論争をみていると、霞が関の省庁と永田町の族議員は、分権を甘くみて、たかをくくっていたとしか思えない。政府は、国から地方へ三兆円の税源移譲をする方針を六月の段階で閣議決定していたにもかかわらず、省庁や族議員が本腰を入れて抵抗を始めたのは「秋の声」を聞いてからである。
ここにきて、自民党は「知事の三選禁止」の法制化の検討を表明した。全国知事会などでつくる地方六団体の結束を揺さぶる狙いもあるようだ。
三位一体改革を検証してきた高木氏は、行き着く先として「住民主導の地域づくり」を掲げる。理想論にも聞こえるが、なりふり構わず抵抗する省庁や族議員の姿を目の当たりにし、分権は、止められない時代の歩みとさらに確信した。
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