中国新聞社

(24)患者はお客様心地よく過ごせる場に

2001/10/14

 自分でも、なんでこんなことに腹が立つのか、分からないことがある。いらいらしたり、ちょっとしたことで怒ったりするのは、抗がん剤のせいだけではない。

 毎日、病室の清掃に女性が来て、モップで床をゴシゴシしてくれる。モップの金属の部分がベットや部屋の角に当たるたび、カターン、カーン、キーンと音を立てる。

 ベットで寝ている私は、手で耳をふさいで、「やめてー」と叫びたくなる。「なぜ、モップは金属製なの?」「当たっても音がしないゴム製のものはないの?」などと考えてしまう。

 ごみ箱にしても、中のごみを捨ててくれるのはありがたいけど、元の位置から微妙にずれると、ごみがうまく入らない。

 洗面台の近くにいすを置いていることにも、理由がある。トイレや洗面の後で、しんどくなったらすぐ座れるようにしているのだ。しかし、私に何も聞かずに、いすを部屋の隅に戻していく。

 「元に戻して」と頼めば、機嫌を損ねかねない雰囲気。とにかく静かに掃除をしてもらいたいと願って、それとなく伝えてみるが、反対に「きれいにしないと」と、怒ったように言われる。

 確かに、部屋は清潔に越したことはない。が、毎日顔を合わせ、同じことを説明しなければならないとなると、こちらも面倒になる。そこで、ついに張り紙を出すことにした。「本日はお掃除はよろしいです」

 病院には直接、患者に接する職種から、間接的にかかわる立場の人までさまざまな人たちがいる。職種の別を問わず、病院で働くすべての人に必要なのは、「患者さんはお客様」という認識だと思う。

 以前、ホテルに宿泊した時、係の人が荷物を持って、部屋に案内してくれた。たばこのにおいがしたのでフロントに電話したら、支配人がすぐ飛んできて、わびを言って部屋も替えてくれた。翌朝は「よくお休みいただけましたでしょうか」とさらに丁重にわびて、「次回もご利用を」と宿泊割引の手配もする徹底ぶりだった。

 「お客様の希望をかなえる」「意見に沿う」「クレームに丁寧に対応する」…、これらはサービス産業では当たり前のことである。さて、医療はどうか? ホテル並みとはいかなくても、せめて「患者が気持ちよく過ごせる環境を、みんなでつくっていこう」という姿勢でもうかがえたら、患者はうれしいのに。

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