中国新聞社

(36)新しい年年賀状・メールに胸熱く

2002/1/13

 まったく一年がたつのは早い。入院生活をしていたのが、夢のようにも思える。新しい年は温泉地で迎えた。上げ膳(ぜん)、据え膳でゆっくりとした正月気分になったのは、久しぶりだ。

 「ああ、皿洗いのない正月って、いいね」

 「ほんとうだなあ。解放された気分だなあ」

 夫婦で混浴の露天ぶろに出入りして、喜んで過ごした。おなかにできた傷は、中年太りで横に伸びた感じもするが、湯煙がたちこめ、体の隅々までは見えたりしないし、かすんで男か女かだって定かには分かるまい。

 とにかく、こういう日が訪れたということが、うれしくて仕方ない。「ありがたい、ありがたい」と言いながら、食事が進むこと。正月でまた、少し太ってしまった。体力をつけるためには、しっかりと食べる、そして寝るが基本だ。

 わが家に戻ると、年賀状やメールがたくさん来ていた。とてもうれしかったのが、私と同じ卵巣がん経験を持つ人からの便りやメール。このコラムを書くようになって、たくさんの方からお便り、メールをいただく。一人ひとりががんを体験し、泣き笑ったことなどを伝え合い、今日の無事を確認し合っている。

 「五クール終わりました。腫瘍(しゅよう)マーカーの値が一けたになったよ」「六クール目が始まるから、がんばるー」…。治療中の人からも、定期的にメールが届く。短いけど、治療の経過に沿って状況を伝えてくれる。「よかったね。もう少しだよ。頑張ってね」と返事を書く。

 彼女とメールをやり取りするようになって、随分になる。私が書いたことの一つひとつが、彼女の思いと不思議にぴったり一致するので、どうしてもそれを伝えたかった、とのことだった。

 一度会ってみようと、彼女が入院している病院を訪ねた。四十歳代ということだったが、スヌーピーの帽子をちょこんとかぶって愛くるしい。「うれしい!」と大歓迎を受けた私も、「こんなに喜んでもらえるなんて」と、「患者みょうり」に尽きる思いだった。

 「小さい子どももいるから、なんとしても生き抜かなくちゃ」と彼女。胸が熱くなった。「うん、生き抜きたいよね」。なんだか、十年来の友人に再会したような気がした。

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