中国新聞社

(44)柳原さんに会う「新しい生き方」に共感

2002/3/10

 がんと知って、一年半たった。ベットで柳原和子さんの「がん患者学」(晶文社刊)を読みながら、年代も同じ卵巣がん患者である作者の生き方に学ぶことが多かった。

 「無事に生還できて、柳原さんに会えたらいいなあ」と思っていたら、意外と早く、彼女と会ってお話しする機会を得た。懇親会では、ちょこんと隣の席に陣取った。

 「彼女に聞きたい、話したい」と参加した人が熱心なので、いざ、話そうとするが、なかなかできない。自然療法の話題で盛り上がっているようだ。結局、患者会づくりのことを告げるのがやっと。「今度、また来てもらえるでしょうか。交通費ぐらいしか出せないんですけど…」「いいわよ」で終わってしまった。

 でも、彼女の体験したことは、活字になって私の体に入っていたし、自分が体験したこととも重なっている。そばにいるだけで、もう一人の自分がいるように感じた。

 「がんになっても敗北者ではない。むしろ新しい生き方を得ることができる、素晴らしい贈り物をもらったのだ」。彼女はそう話した。私も「うん、うん」とうなずく。

 すべての患者が、そう思うわけではないかもしれない。しかし、私の場合、そう考えることで、「生きていくぞ」という勇気がわいてくる。健康な人と、実際にがんを経験した人では、感じる世界が違うということも、「ほんとに、そうだなあ」と納得できる。

 友人に「今までと世界が違って見えるよ」と言ったら、「ええ、どういうこと?」と、けげんそうな顔をされた。

 「病気になったら分かるんよ。今まで見えなかったものが見えたり、感じなかったものを感じたり…。ものごとが透明に見えてくるというか、真実がわかるというか…」

 「具体的に言ってよ」

 「そうね。例えば、人と接していると、その人が何をどう感じているか、手に取るように感じられるということかな」

 自分に対する態度や言葉で分かることもある。ただ、傷ついた分だけ感受性が強くなっているので、善きにつけあしきにつけ、相手の本音を犬のようにクンクンとかぎ分けることができるようになった。

 この人は病気を体験した人だなあということも、ほぼ察しがつく。優しさが胸に染み入るのだ。

Menu ∫ Back ∫ Next