放流や藻場再生 率先
「漁業者の努力」軌道
「魚島」―。群れをなして回遊するサワラ。海が盛り上がって見えるほどの大群が押し寄せた時代もあった。岡山県東部の日生町沖合の播磨灘は、瀬戸内海を代表する漁場。産卵などで外洋から入ってくる春、大小14の島からなる日生諸島は「もう一つ島が増える」と沸きたった。
「とれなくなったと嘆いてはおられん。育てんと」。サワラの激減に直面する日生町漁協の組合員は口をそろえる。春漁がほぼ終わった6月末、大多府島沖のいけすから中間育成した稚魚約1万7800匹を放流した。一帯には藻場が広がる。
放流は昨年に続いて2回目。2002年度に始まった国の水産資源回復計画の一環でもある。今年は瀬戸内海の6府県9カ所で放流。春、秋の休漁、流し網の網目の大きさを統一するなど広域的に取り組む。
いけすに入れた稚魚は当初、体長3、4センチだったが、放流するまでのわずか15日間で12、3センチに。成長が早い分、大食いで、えさを切らすと共食いする。中間育成が難しい魚種で、交代でえさを与え続けた。
いけすでの稚魚の歩留まりは80%。昨年の72%を上回った。岡山県水産試験場業務部の古村振一さん(37)は「漁業者の努力の結果」と評価。サワラ復活への思いの熱さを感じる、と言う。
瀬戸内海での漁獲量がピークを迎えたのは1986年。県全体(535トン)、日生(186トン)でも過去最高を記録したが、99年には県内100分の1以下の5トン、日生で4トンに落ち込んだ。高級魚だけに漁業収入への影響は大きい。
「20世紀のつけが、すべて回ってきたんだろう」と、組合長の本田和士さん(67)。魚網や漁船の性能向上によるとり過ぎとの反省はある。埋め立てや海砂採取などによる漁場環境の悪化や、えさになるカタクチイワシ、イカナゴの減少、汚れた水の流入などの外的要因も原因とみている。「人の営みが生態系に大きな打撃を与えた」
日生町漁協は早くから自主的な資源管理を実践。96年から漁網の目を大きくし、98年から秋漁を禁止した。翌年には独自に受精卵放流に乗り出した。
「海の恵みだけに依存していたらだめ」。この半世紀で激減した藻場の再生にも取り組む。始めて19年になるが、藻場再生は一進一退を繰り返す。
県も腰を上げ、日生周辺の海洋牧場整備計画(2002〜09年度)を進める。16ヘクタールの藻場づくりを目指し、底質改善の効果を試すためカキ殻をまいた。じかまきや種を植えたマットを沈める方法など海域に適した方法を探っている。
日生のサワラ漁獲量は昨年、15・6トンまで回復した。「自然の力は大きい。一度失ったらなかなか戻らない。だからこそ、これまで携わってきた自分たちが、海を次世代につなげる道筋をつけたい」と本田さん。陸の里山のように、人が適切に手を入れて水産資源を増やしていく里海づくりを通じ、サワラ王国の復活を目指している。
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