砂山移動 堆積わずか
自然の力に任せ生態系の回復を
長年にわたる海砂採取で失われた瀬戸内海の海底環境は回復するのか―。産業技術総合研究所中国センター(呉市)の海洋資源環境研究部門などの研究グループはこれまでの調査で、潮流などによる新たな砂の堆積は現在も続いていることを確認。竹原、三原市沖の海底では砂丘のようなサンドウエーブが移動していることも判明したが、数十年、数百年では元の姿に戻ることはない。
瀬戸内で採取された海砂は、1968年からの約30年間だけで約6億立方メートル。違法な超過採取分を除く許可量だけでも、自然が2、300年もかかってつくった分を1年で消費した計算になるという。
こうした実態を踏まえ、研究グループは2000年度から5年計画で、採取後の地形や潮流の変化、海底の回復状況、藻場の状況、生態系への影響、資源量の算定などの調査、分析を進めている。
海底地形は、愛媛大沿岸環境科学研究センターの井内美郎教授(54)らが担当。音響測深機を使い、旧採取区域を中心に海底地形を精密に調べた結果、竹原、三原市沖の一部海域ではわずかながら回復傾向にあることが分かった。
サンドウエーブはいくつかの砂山が海底を移動する現象。瀬戸内海の海砂生成史とも深く関係し、潮流の影響で起こる。三原市幸崎沖では高さ5メートル前後、幅約30メートルの砂山が西方向に、昨年9月からの約1年間で20〜40メートル移動していた。
「砂の動きが示すように自然の修復力は機能しているが、人間による自然破壊のスピードに比べれば微々たるものでしかない」と井内さん。今後、海砂採取跡を含めた一帯に砂がたまるのは千年で高さ数メートルとみている。
一方、人為的な修復策として採取跡に別の砂を入れたり、砕いた貝殻をまいたりする方法もある。しかし、産業技術総合研究所中国センター研究員の星加章さん(55)は「採取跡地は広大で、現実的ではない。せいぜい採取の影響が特に大きい個所での局所的な対応に限定される」とみる。
自然に手をかけながら環境浄化や海の幸回復を目指す里海づくりの対極にある海砂採取。その代償はあまりに大きく、抜本的な解決策はない。
ただ星加さんは、魚が産卵し育つ藻場が戻りつつあることに希望を見いだす。「自然の再生力に任せながら、生態系を回復させる手法をとる方が効果的」と考えている。
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