市民の球団だから好き

作曲家
池辺晋一郎さん(61)
=東京都世田谷区

 

  シーズン中は、広島の友達からカープの試合経過が刻々とメールで入る。これまで十何回か行った市民球場で、カープの負けを見たことがない。「だから大事な試合にはお呼びがかかる。もっとも最近はそんな局面がないのが残念だけど」
 疎開先の水戸市で生まれ育ったのに、生粋のカープファンである。「たる募金」の賛同人も快諾した。カープにまつわる最も古い記憶は小学四年ごろ。作文に「市民がつくった球団だからカープが好き」と書いた。「少年雑誌で読んだのかなあ。日本は米国と違って、球団名に鉄道や新聞社が付いているのは変だなんて、生意気に思ってた」と笑う。
 仲良しだった武満徹さん(故人)は、有名なタイガースファンだった。「現代音楽やってて巨人じゃ、矛盾してるとか互いに言ってね。カープファンというと、芸術家としてある種いかしたイメージを抱かれる面もある」。一九七五年に初優勝を決めた試合のラジオ中継のテープは宝物だ。
 広島の町も好きだ。川が多く、交差する印象が、かつてのカープの緻密(ちみつ)な野球スタイルと重なり合う。広島の仕事は喜んで引き受ける。創作オペラ「じゅごんの子守唄」の作曲や、被爆五十周年コンサートの音楽監督…。知己も多く、「一見豪快で、『まあ仕方ないのう』とうやむやにする気質とカープの野球も似てるよね」と分析する。
 球界再生の鍵とされる「地域密着」を土地のカラーと読み解く。選手がそこで生活し、ドラフトでゆかりの選手の優先的選択権を得る―。球団経営に自治体が参画するのも面白いと期待する。
 カープの復活も、機動力のある個性派集団の再来にかかると信じる。お金がなくても、目指す方向がもっと明確なら魅力は増すとも力説する。野球好きの音楽家十三人による順位予想は二十年になる。「そろそろ当たってほしいよね」

【写真説明】「『市民』ていう言葉に弱くて、聞くと胸がかさっと動くんだよ」と語る池辺さん
(東京都豊島区の東京音楽大)

いけべ・しんいちろう
日本作曲家協議会会長、東京音楽大教授。オーケストラに演劇、映画、テレビと守備範囲は広く、最も忙しい作曲家の一人。作品に、オペラ「死神」、映画「影武者」「楢山節考」「瀬戸内少年野球団」、テレビ「八代将軍吉宗」などがある。演劇約400本。04年紫綬褒章。

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