■買い物客呼び戻す魅力を
人がドシドシ入り来たれば、自然諸物の出入りも盛りとなり、何かが全体においてふるい立ってくる。(中略)広島に人を招致するには、広島を来よい、住みよい、気持ちのよい場所とせねばならぬ―。
広島出身で戦前に衆院議員を長く務めた荒川五郎(一八六五〜一九四四年)が、一九三〇年に著した「大廣島之創造」にそう書いている。
街の何が人をひきつけるのか。買い物、飲み食い、コンサート。広島には野球などプロスポーツもある。美術館などの文化施設や病院を求める人もいるだろう。遠来の客だけでなく、市民も遊びや所用で街に出る。人が集まれば経済活動も生まれる。
広島市中区の本通りは中四国最大の商店街である。平日も祭りのような通行量だ。しかし郊外の大型店の急増や、専門店の減少などにより、売り上げは振るわない。「巻き返しに斬新な発想を」と女子大生の意見も取り入れ始めた。
■学生の提案に向き合う
おそろいの赤のキャップの女子大生たちが、親子連れに風船やあめを配る。広島市中区本通りで、商店街のために活動する広島修道大(安佐南区)の「ショッピングモールシスターズ(SmS)」(十人)だ。毎週土曜日、東西約五百八十メートルのアーケードで会える。
本通りは広島城築城に伴って誕生した。紙屋町、八丁堀地区に沿って約二百店舗が連なる。空き店舗はゼロ。平日でも延べ三十八万人が行き交う中四国随一の商店街である。
郊外店が攻勢
しかしバブル景気崩壊以降は、老舗の廃業が相次いだ。跡には東京資本のチェーン店が進出し、携帯電話店やドラッグストアも目立つ。商店街振興組合理事長の望月利昭さん(62)は「雰囲気も歩く人もカジュアルになった。洗練されたイメージが消えつつある」と寂しがる。近年は郊外の大型店の攻勢も激しい。
SmSの発足は昨年三月。大学の講座で起業家精神を学んだ大学院一年田口由佳さん(21)が「人通りの割に、店で買い物をしていない」と気づき、振興組合に提案した。組合側も「活を入れてもらおう」と外部の人材を初めて受け入れた。清掃やチラシ配りのほか、共通デザインの買い物袋、高齢客の介助などの企画を任せ、報酬を支払う。
固定客の声も
組合販売促進企画部長の高田諭さん(40)は「高齢客のサポートなど思いつかなかった新鮮なアイデア。ただこっちも真剣勝負なので、企画力が足りなければ当然クビ」と厳しい。二年目の今年は引き締めの意味も込め、報酬を切り下げた。田口さんも「学生気分をぬぐわなければ」と決意を新たにする。
組合は今夏、三十代以上の固定客をサポーターとする「本通倶楽部(くらぶ)」も設ける。店主と客の垣根を低くして声を聴き、都心の魅力に磨きをかけるのが狙いだ。
五月上旬には、本通りと近くの紙屋町地下街シャレオの魅力や課題を探ろうと、東区の比治山大の学生たち約四十人が現地調査した。客層を若い女性に絞るシャレオに対しては、「彼氏と一緒に歩きにくい」と指摘があった。シャレオ企画課長の安長秀伸さん(47)は「物産展など世代を問わない企画も考えたい」と柔軟に受け止める。
60%割り込む
中国新聞社の昨年の広域商圏調査によると、「買い物によく利用する繁華街」で都心部の紙屋町と八丁堀周辺を選んだ人は56・2%。調査を始めた一九七六年以来初めて60%を割り込んだ。
「郊外型の大型店が東西南北に出現し、戦わざるをえない」と望月さん。歴史とプライドを持つ都心の商店街も、頂けるアイデアは頂いて巻き返しに乗り出そうとしている。
住まいとともに、多くの機能が郊外に流出した今の時代。それでも人をひきつける都心の魅力を、パート6では考える。
2004.6.1
|