タイトル「ひろしま 都心のあした」
  パート 7  私たちの宣言

    ■ 公共空間 ■
      「街のオーナー」意識を

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新たなにぎわいを生み出したひろしま朝市。客も生産者も増え、区域の拡大を検討している(11日、広島市中区富士見町)


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市民が「基町POP’La(ポップ・ラ)通り」と名付けた本川左岸。ポプラに心を寄せる人々が日常的に集まり始めている(広島市中区)
●住民の手に取り戻し、積極的に使おう
●広島ルールを作ろう

 毎週日曜、広島市中区の平和大通り緑地帯に立つひろしま朝市。昨年の試行が好評で、四月から常設となった。千人近くでにぎわう日もあり、出店者も二十二団体に増えた。風景として定着しつつあるが、今はあくまでも一年間の社会実験だ。

 実施に向け、市は「地産地消」「都市と農村の交流」という公共性を掲げ、警察と協議を重ねた。「商売敵になる」と渋った既存店を巻き込み、仲間に引き入れた。違法駐車がないよう職員が毎回整理にあたるなど、目に見えない官の努力がにぎわいを支える。

 平和大通り、水辺、平和記念公園などの公共空間を「生かしきれていない」と考える人が多いことを、取材を通じて再認識した。行政が管理する道路、公園や緑地、河川などの公共空間。広島市中区では、河川を除いてもその面積は全体の四分の一を占める。

 しかし、法や規制、慣例の壁は厚い。国、広島県、広島市が進める「水の都ひろしま」構想ですら、役所内部の調整で担当職員が消耗しているのが実情。ましてや市民が新しい試みに挑むのは並大抵でない。結果的に相当の空間が「宝の持ち腐れ」になっている。

まず動きだす

 都市計画家の松波龍一さん(57)は、東区のマンションに住んでいた時、管理組合に「近くの公園で宴会をしよう」と提案した。ご近所の反応は「公園を自由に使ってもいいの?」。決行したら、花や風を楽しみながら互いに人柄を知り合う得難い場となった。

 公共空間は元来、みんなの財産だった。維持管理を行政に任せるうちに、私たちは「お上の財産」と思い込まされてはいないか。全国で都市計画に携わる現代計画研究所(東京)の藤本昌也代表は「住民は都市の『テナント』でなく『オーナー』だ」と、意識の切り替えを主張する。

 参加から主体へ。住民に当然、責任も生まれる。トラブルなどが起こった場合、行政に頼り切っては元のもくあみである。「だからといって及び腰じゃダメ。やってみないと学習できない」。藤本さんは、まず住民が動きだそうと勧める。

収益で長続き

 広島都心ではこれまで、市が平和大通りや元安川沿いでカフェなどを試行してきた。山本哲生・都市計画担当部長は、長続きさせるには収益が上がる事業との組み合わせが鍵だと考える。

 順調に映るひろしま朝市も、駐車場代や道路占有料などからはじいた出店料を差し引くと、農家の取り分は孫のおもちゃ代程度。新鮮な農産物、会話の妙味といった都心住民が受ける恩恵を、生産者のやりがいだけに頼っては長続きはすまい。

 利用目的、収益事業の在り方、公平性の保ち方…。全国一律の制度はもう要らない。議論を重ね、知恵を出し合って、広島ならではの自前のルールを編み出そう。民間が参入した京橋川のカフェや、市がこれから取り組む平和大通りのにぎわい創出モデル地区を、公共空間を「使う」ための社会実験から、ルールを作る実験の場にしよう。そして公共空間を名実ともに私たちの手に取り戻そう。


■魅力づくり 行動の時

 中四国の顔ともいえる広島都心の輝きを取り戻そうと、その手立てを元日からの連載で探ってきた。どうやらその鍵は、先人たちが築き上げた財産を生かしたり、結んだりして新たな魅力を生み出す作業にありそうだ。

 実現に向けどうすればいいのだろう。歩きやすい都心づくり、水辺や平和記念公園の活用などテーマは異なっても、共通した課題が浮かび上がってきた。

 締めくくりのシリーズでは、都心復権に向けての道筋を五つ挙げる。そして、住民や来訪者として都心にかかわる私たちの目標を「宣言」として掲げる。当事者としてまちづくりに加わり、行政や大手デベロッパーに任せっきりにしないための宣言でもある。

 量から質へ―。まちづくりの方向も変わる今、広島市の街中にある公共空間で快適に過ごしたい、もっと自由に使って楽しみたいとの欲求が高まっている。初回は、公共空間に対する住民の意識改革と、自前のルール作りを呼び掛ける。

2004.7.14