●それぞれの取り組み
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若狭さん 祭りや演奏会を企画
田口さん 商店街掃除や道案内
糸山さん 訪問者倍増施策練る
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増田 「ひろしま都心のあした」という企画を昨年、半年余り連載した。平和記念公園、平和大通りと地域ごとに取り上げたが、すぐに共通するテーマに気付いた。都心を魅力的にする担い手は誰なのか、志ある人たちをどうもり立てるか、それは誰の役割なのか―。そこに焦点を当てて考える場にしたい。まず皆さんの取り組みを教えてください。
金谷俊宗さん
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金谷 広島商工会議所が議員や支店長会を対象にしたアンケートで、90%が「広島都心の求心力が低下している」と答えた。消費者や来訪者からは、回遊性に乏しい▽広島ならではの飲食を楽しめるゾーンがない▽快適な歩行者空間がない▽個性的な店が集中する裏通りがない▽新たな観光スポットが必要―の五点が問題点として浮かび上がった。都心がにぎわい、人が住み、働く場に戻すことで、街を再生しようと提言した。
若狭 一九九九年の「えべっさん」から、広島のイメージは「暴走族」になってしまった。このイメージを変えるため、浴衣の祭り「ゆかたできん祭(さい)」や、暴走族のたまり場になっていたアリスガーデンでバンド演奏やダンスを披露する「AH!」を企画し、にぎわいづくりや文化発信に頑張っている。
田口 二〇〇三年三月に本通商店街振興組合の委託を受け、女子大生が中心の「ショッピングモールシスターズ」をつくった。毎週土曜日に本通りの掃除や道案内、イベントで商店街の盛り上げをお手伝いしている。お客さんの声をどう吸い上げるか、都心と学生のつながりをどうつくるかが課題になっている。
糸山 新年度から都心担当の局長、部長を置いて施策に取り組む。広島の個性を磨き、訪れる人を増やそうと「ビジターズ倍増計画」を練っている。都心ビジョンも策定した。経済界や商店街、市民、行政が同じ目線で連携しないとうまくいかない。ルールや仕組みづくりなどについて具体的な提案が出てくることを期待している。
糸山隆さん
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●悩み・問題意識
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若狭さん 市民への支援充実を
金谷さん 一層の情報交換必要
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増田 都心ビジョンは、都心にかかわる多様な人が担い手にならないと実現できないし、それがミソでもある。実際に動いておられる皆さんは、どんなことに悩んでおられますか。
田口 本通りに来た人にアンケートを取ったことがある。「ベンチなど憩いの場が欲しい」という意見が多かったが、実現しない。本通りは車道で、大人に相談しても「警察にお願いしてもどうせ断られる」と進まない。一緒に考えてもらう人がいればいい。
若狭 私たちがセトラをつくったのは、まさに田口さんたちのような意欲的な若者を巻き込みたかったから。都心部はステージでもある。何かしたい意欲のある人は潜在的にいるはずだが、相談窓口がないし、私たちとの出会いの機会も少ない。まちづくりのソフト面の主役は市民。より活動しやすく、表舞台に立てるように支援する態勢が要る。
若狭利康さん
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金谷 景観が美しい▽コンパクト▽何でもそろう―が広島都心の魅力。徒歩での回遊ルートや、若者主役のゾーン整備、高齢者向けの休憩場所も要る。六本の川が流れる空間も大切な財産ととらえたい。将来の道州制をにらみ、州都として集客力と回遊性を高める必要がある。もり立てるための鍵は、経済界と行政の連携、市民の理解。リーダーもいてほしい。
藻谷 一通りの課題は出た。一息つける場所が少ないのは、土地を提供する人がいないせいもある。東京に、ビルの敷地の一角を巨大なカフェに開放した企業がある。そこでは社員が民間非営利団体(NPO)のメンバーとしてネクタイを締め、名刺を配り、同時に汗もかいている。
若狭 実は最近、資金不足で専従職員を解雇したばかり。支えてくれる企業がないかといつも思う。驚くような低予算でイベントを切り盛りしているのが実態だ。
金谷 そんな実態だとは全く知らなかった。本当に切実なところを応援したい。もっと情報交換が必要ですね。
●一緒にやってみよう
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金谷さん 水辺を活用して屋台
田口さん 本通りにまずベンチ
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増田 皆さんの問題意識は共通点が多いですね。せっかくですから、具体的なテーマを見つけて互いに協力して取り組んでみませんか。
田口由佳さん
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金谷 観光やにぎわいの観点から、水辺を活用して屋台をやりませんか。どこにでもあるものではなく、瀬戸内の海の幸など広島ならではの食材、メニューに趣向を凝らし、若い人が参加できるおしゃれな感じがいいですね。
増田 呉市は工夫して屋台を公認しましたが、全国的には綱渡りの制度が多いですね。
藻谷 北海道の帯広と青森県の八戸で、市街地の民有地を活用した屋台の成功例がある。地権者が土地を貸し、保健所の許可を取った。ものすごく元気が増している。
田口 屋台は魅力的。若い人の中にもやりたい人は多いと思う。まず小さな事例を達成してから、乗り出したらどうだろうか。例えば私たちがやりたくてもできない、本通りのベンチはどうでしょう。
若狭 本通りは車道なので、道路交通法が壁になっている。ベンチを許すと、看板や駐輪などのルールもなし崩しに守られなくなる懸念もある。クリアするには、新たに条例をつくるとか、特区として規制緩和を認めさせる手もあるのではないか。
糸山 車道である本通りにベンチを置くと、救急車や消防車が入るとき、どうするんだという議論もある。バス停近くの歩道などの場合は比較的緩いけど、車道となると現状では絶望的。でも一方で、公益的なイベントの際に限っては、警察も行政も許可する流れはある。
増田 行政と警察をいかに味方につけるか。緊急車両が入ってきたときは誰が責任を持つか。違法な駐輪や看板は見過ごさない自覚も求められる。たかがベンチ、されどベンチ。結構面白いテーマですね。
藻谷 ベンチは客へのサービス。集客できる場所をつくるのも公共サービスの一つといえる。やってみる価値はあるでしょう。
金谷 活力や勢いがある街なら、問題解決にもスピード感がある。ベンチや屋台も早急に取りかかりたい。
若狭 これまで市や警察と三すくみのような状態で、身動きが取れなかった面もあった。今は話ができる関係になりつつある。もうちょっと進めて、企業や学生、市民が加われば、いろいろなことが達成できるのかなあと思う。
藻谷 市街地の空き地を、地権者がポケットパークにしてくれたら面白い。長期的に考え、わしも一つ汗をかこうかのうと。誰かが力を入れれば、周りが一気におしゃれになる可能性はある。これに市の努力、経済界の協力が加わると心強いんだけどなあ。全国をみると、広島は元気な所。だから皆さん、自信を持って努力してください。
増田 昔の理屈で作った法律や制度に準ずると、できないことだらけ。これまでは公共空間の管理を役所に任せてきたけれど、それをわが手に取り戻したい、使いたいという意志を束ねましょう。志のある「町衆」も登場すれば、目に見えて変わるでしょうね。屋台の実現を目指して、ベンチを手始めに頑張りましょう。
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