中国新聞



2001/8/05

米国西部諸州法律財団事務局長
ジャックリーン・カバーソさん(48)
■冷戦時より開発に血道
「世界の警察官」米に意識
<プロフィル> ニューヨーク州生まれ。1984年、カリフォル ニア州オークランド市に弁護士らとともに西部諸州法律財団を設 立。核軍縮、環境問題などと取り組む。核廃絶を目指す「アボリシ ョン2000」の創設者の一人。
 
 ―広島訪問は一九九三年以来、二回目と聞いています。

 初めての時もそうだが、被爆地に身を置くと、とても厳粛な気持 ちになる。どのような理由をもってしても正当化できない大量破壊 兵器を自国政府が広島、長崎に使用したというだけでなく、今なお 核兵器やミサイルの研究開発に血道を上げているからだ。

 ―原爆開発に取り組んだ第二次大戦中の「マンハッタン計画」以 来、今も変わらないと…。

 そう。九一年にソ連が崩壊し、東西冷戦構造が終えんを迎えた。 前回広島を訪れた時はなお、早いスピードで大幅に核軍縮が進むと の淡い希望があった。でも、現実は老朽化した膨大な数の戦略核兵 器などが一定に削減されただけで、「核兵器貯蔵管理プログラム」 の名の下、小型のより使いやすい核兵器や弾道弾迎撃ミサイル、レ ーザー兵器の開発などが進められてきた。

  ▼主張の陰で製造

 ―昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、米国も「核 兵器廃絶への明確な約束」に合意しました。

 会議期間中、私もニューヨークの国連本部に詰めていた。米国代 表部は、NPT第六条にうたう軍拡競争の停止と核兵器廃絶への順 守を示すため、過去十年間、兵器の解体や核施設の商業的利用、放 射能汚染に対する環境回復などに取り組んでいる、と展示資料で盛 んにアピールしていた。

 しかし、本当はロスアラモス国立研究所やローレンス・リバモア 国立研究所に新たな核施設をつくり、「ミニ・ニューク」などと呼 ばれる高性能核兵器の開発製造に取り組んできたのだ。

 ―核兵器開発予算は冷戦時よりも随分増えていますね。

 米国は現在、核兵器の研究・開発・実験・製造に年間五十億ドル (約六千二百五十億円)以上費やしている。冷戦時代の三十七億ドル (約四千六百二十五億ドル)をはるかにしのいでいる。むろん、これ は核弾頭だけにかかる費用で、運搬システムの経費は含まれていな い。これらはすべて民主党のクリントン政権時代からのものだ。

 ―米本土ミサイル防衛(NMD)の早期配備や包括的核実験禁止 条約(CTBT)からの脱退を示唆するなど、共和党のブッシュ政 権は一国主義に陥っていると言われます。が、民主党のクリントン 前政権も、根底ではそれほど違わないと…。

 その通り。クリントン政権はCTBTに署名する一方で、臨界前 核実験をはじめさまざまな次世代核兵器を開発するために予算を増 額してきた。NMDや戦域ミサイル防衛(TMD)など宇宙をも軍 事化してしまう技術開発も推進してきた。

 分かりやすく言えば、ブッシュ政権は「それでは生ぬるい。もっ と強力に武器のハイテク化を推進しないと、アメリカの安全は守れ ない。CTBTからも脱退して実際に核実験を実施してみないと、 新兵器の信頼性が確かめられない」と。つまりクリントン時代に見 えにくかったものが、一気に表に出てきたというのが真相だ。

 ―絶大な軍事力を誇る唯一の超大国である米国が、なぜそこまで する必要があるのですか。

 それによって利益を得る軍産複合体の力が強いということが一 つ。それに多くのアメリカ人の底流には、民主主義と自由を守る 「世界の警察官」との意識もある。こうした意識が、結果として現 在の状況を許す結果を招いている。

  ▼残念な日本政府

 ―現状を変えようとする動きは?

 軍縮・環境問題などに取り組む多くの非政府組織(NGO)のメ ンバーや良識ある市民が大きな危機感を抱いて活動を強めている。 日本などからももっとプレッシャーを掛けて欲しいが、日本政府は ブッシュ政権に理解を示しており、残念でならない。  

21世紀 岐路に立つ軍縮