中国新聞



2001/8/07

前国際司法裁判所(ICJ)副所長
クリストファー・ウィラマントリーさん(74)
■人間的安全保障に目を
平和教育の拡充を目指す
<プロフィル> スリランカの首都コロンボ市出身。スリランカ最 高裁判事、オーストラリア・モナッシュ大教授を経て、1991年 から2000年までICJ判事。コロンボを拠点に平和教育の普及 に取り組む。
 
 ―平和祈念式に参列された印象は?

 とても心を動かされた。祈念式やさまざまな平和集会への参加を 通じて、核兵器廃絶を願う多くの日本人の情熱が伝わってきた。広 島市長の平和宣言にもあったように、平和教育をどう普及させるか が、地球上から戦争をなくし、核廃絶を実現させるカギを握ってい ると強く思った。

 ▼核の違法性明白

 ―一九九六年、ICJは「核兵器の使用・威嚇は一般的に国際法 に反する」との勧告的意見を出しました。「いかなる場合も違法」 と強く主張された立場から見てどう評価されていますか。

 国家の存亡が危険にさらされている極端な状況下での使用は、違 法かどうか判断できない、とのあいまいな部分を残したのは残念 だ。なぜなら、ジュネーブ協定(二五年と四九年)をはじめ、既存 のどのような国際法に照らしても、違法であるのは明らかだから だ。

 しかし一方で、十五人の判事全員が一致して、すべての国が核兵 器廃絶を目指し、核軍縮に取り組む義務があるとも明確にうたって おり、道義的に縛りをかけたという意味では大きな意味があったと 思っている。

 ―原爆や水爆などの核兵器でなくとも、使用後に長く人体や環境 に影響を及ぼす放射能兵器である劣化ウラン弾などは、既存の人道 法に照らせば、禁止すべきものだと思います。しかし、現実には存 在を続け、実戦で使われています。

 大切なのは、もっと実態を世界の多くの市民に知らせることだ。 実際に戦場で使っている当事国の国民でさえ、本国から遠く離れて いるために知らないケースが多い。知らないから無関心になる。

 それに、自国中心の安全保障の考えから抜け出し、世界の人々の 安全保障、明日の食べ物や安全な水、シェルターといった人間的安 全保障にもっと目を向ける必要がある。一国の平和とか安全保障と かの枠内にとどまっていては「戦争の世紀」だった二十世紀と同じ 過ちを繰り返すだけだ。

 ―九四年に米国の「水爆の父」と呼ばれるエドワード・テラー博 士にインタビューしたおり、博士は「科学者の責任は未知のものを 探求することにある。その結果生まれたものを政治家が誤って使用 しても、その責任は政治家にある」と主張しました。科学者の責任 を問う著作をものした立場からどう思われますか。

 科学者は自分の行為に対し、他人を隠れみのにしてはならない。 彼らは自分の研究が何をもたらすかを一番知っている。とりわけ、 無差別大量に人を殺傷し、戦争終了後も放射能によって長期にわた って人々を苦しめる核兵器開発にかかわる人たちに「未知の探求」 だからとの言い訳は許されない。そのことを約十五年前に書いた 「核兵器と科学者の責任」の中で指摘した。テラー博士の主張は奇 弁にすぎない。

 ▼子ども向けに本

 ―コロンボに「平和教育と研究のためのウィラマントリー国際セ ンター」を設立したそうですね。  

 今年六月に誕生したばかりだ。国内はもとより、南アジア、さら には世界中に平和教育を広めたいと思っている。世界の未来の市民 である子どもたちに、多様な文化を理解し、人類が一つであるとの 考え方を小さいときから伝えていきたい。まず十五歳から十七歳ぐ らいの子どもたちを対象に本を出版する計画だ。

 ―広島、長崎の役割についてどう思われますか。

 学校、地域、自治体などあらゆるレベルで被爆の実相を伝える必 要がある。日本国内だけでなく、世界中に広めてほしい。そのため に世界平和連帯都市市長会議などを活用するのが有効だろう。

21世紀 岐路に立つ軍縮