中国新聞



2001/8/10

インタビューを終えて
■「非核・平和思想」内外へ
ヒロシマ 責務重く
 
  「広島に来てエネルギーがまたわいてきた。ワシントンDCに戻 ったら核廃絶に向けての取り組みを一段と強めなくては…」。

 米国最大の草の根平和団体「ピースアクション教育基金」政策デ ィレクターのトレーシー・モベロさん(33)は、ほっとしたように笑 みを浮かべて言った。三年間国連コーディネータを務めた後、今年 一月からは米国の政治の中枢ワシントンで、上下両院議員らのオフ ィスを回ってロビー活動などを続ける。

 ワシントンでは、政府高官はむろん、モベロさんが直接接する共 和・民主両党の議員スタッフらからも「核軍縮」なる言葉は出てこ ないという。彼らの用語には「核軍備管理」という言葉しかなく、 それも常に米国優位の核軍備体制でなければならないのだ。

 核廃絶を求める壁の厚さにいささか疲れを見せていたモベロさ ん。とりわけ、ブッシュ共和党政権が誕生した新世紀のこの八カ月 間は、彼女ならずとも世界中の人々が、さまざまな障壁を越えて築 いてきた国際協調の歩みを踏みにじるような核超大国の外交政策に 懸念や憤りを覚えたのではないだろうか。

 ▼米核政策に危機感

 二十一世紀初年の「八月の広島」は、その不安や怒りを象徴的に 映し出していた。モベロさんをはじめ、このシリーズで紹介した米 国・ロシア・中国・インド・スリランカ・アイルランド・フランス 在住日本人の八人の外交官や法律家、平和運動家らは米国が進める ミサイル防衛構想などに、それぞれの立場から一様に反対した。

 原水爆禁止世界大会や世界平和連帯都市市長会議、そのほかの平 和集会でも、米国の核政策に批判が集中した。

 とりわけ、米国の平和団体の代表らからは、宇宙をも軍事化して しまう「スターウォーズ」構想や、地下深くにある敵のミサイルや 武器貯蔵庫を破壊する「ミニ・ニューク」の開発などについて詳し い説明がなされた。

 秘密にされがちな情報を入手し、被爆地に集った核廃絶を願う世 界の人々を前にその危険をアピールする。その姿には「米国の核政 策に『ノー』を突きつける世界の世論がなければ政策を変えさせる ことはできず、その結果核軍拡競争の再燃や核拡散を加速させてし まう」との危機感さえ漂っていた。

 ▼日本へ厳しい注文

 取り上げた八人に限らず、非核三原則を国是とする日本政府への 疑念、期待を込めた注文も相次いだ。米国と共同研究を進める戦域 ミサイル防衛(TMD)に対し中国などから厳しい見方が出た。

 特に米国のミサイル防衛構想に「理解を示す」日本政府の姿勢 に、アメリカ人の平和運動家らから「包括的核実験禁止条約(CT BT)の早期発効に取り組む日本の非核政策に逆行するものだ」と の強い批判も出た。

 米国の「核の傘」の下にあって非核政策を進める矛盾、弱さが、 日本のイニシアチブに期待する世界の人々の目に「奇異」に映り、 誤解や信頼を失う結果につながっていることを胆に銘じたい。

 一方で、核廃絶や世界平和、紛争地域の和解に果たす被爆地広島 への期待には強いものがある。被爆から五十六年が過ぎ、新世紀を 迎えてもなおそれは変わらない。偶発事故を含め核戦争の危険が続 いているだけに、より期待が高まっているとも言える。

 ▼逆境を乗り越えて

 高齢化する被爆者、ままならぬ次世代への体験継承…。こうした 事実を見据えるとき、内外からのヒロシマへの期待は、私たちの力 量を超えるものであるかもしれない。

 が、私たちは手をこまねいているわけにはいかない。岐路に立つ 核軍縮への道を逆行させないためにも、ヒロシマは自信を持って多 くの犠牲と被爆者らの苦しみの中から生まれた「非核・平和思想」 を内外に伝えねばならない。

 そしてモベロさんのように被爆地を訪れた若い人らがヒロシマに 接して平和の尊さを学び、活力を得、世界各地で核廃絶や平和のた めに働く―そんなヒロシマであり続けたいものである。  

(編集委員・田城明)

21世紀 岐路に立つ軍縮