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米テロ1年ヒロシマから

広島市民との対話集会

がん急増 薬も不足 劣化ウラン弾、影響深刻 
広島訪問のイラク人医師 アリ氏に聞く
2002/12/03
 東京などの市民団体の招きで被爆地広島を訪れているイラク人医師のジャワッド・アル・アリ氏(58)に二日、最近のイラクの医療事情や、四年ぶりに始まった国連安保理決議に基づく同国への大量破壊兵器に対する査察問題について聞いた。
(編集委員・田城明)
  
■ 米の攻撃 回避させて

原爆資料館を見学しての印象は?

 医師として広島・長崎の被害について関心を寄せてきたが、破壊の影響は想像以上だ。一九九一年の湾岸戦争で、米英軍は放射能兵器である劣化ウラン弾を、私が住むイラク南部のバスラ近郊で大量に使用した。広島の被爆者と劣化ウラン弾で犠牲になった私の患者とが重なっていった。
 
■  ■  

二〇〇〇年初頭に、あなたの病院を訪ねて取材しましたが、現在の状況はどうですか。

 白血病や悪性リンパ腫(しゅ)、乳がんなどがん患者が年々増え、事態は悪化している。バスラ市内の病院で死亡したがん患者は、八八年が三十四人。十年後の九八年は四百二十八人。それが二〇〇一年には六百三人にも達した。私の病院の三十代の女性医師五人は乳がんなどを発症し、すでに二人が死亡した。妻の家族も義母ら八人ががんになり、七人をみとった。

先天性障害をもつ新生児も増えていますか。

 湾岸戦争前と比べ約四倍になる。戦場となった地域に住む人たちほどその傾向が強い。放射線だけでなく、劣化ウランがもつ重金属物質としての毒性の強さが複合的に影響しているとみている。
 
■  ■  

米国や日本などの経済制裁に伴う医療面への影響は?

 九七年の国連安保理合意で、医薬品と食料のための部分的石油輸出緩和措置が取られながら、今は最悪の状態だ。化学療法などでがん患者を治療する薬品が底をついているだけではない。がん患者の痛みを軽減するモルヒネすら入手できない。苦痛で叫び声を上げる患者と一緒に私も心で叫んでいる。「なぜ、薬が入手できないんだ」と…。

国連安保理決議に基づき、大量破壊兵器に関するイラクへの査察が先月末から始まりました。どうみていますか。

 医師の私には軍事施設のことは十分には分からない。が、イラクには核開発施設はむろん、生物・化学兵器もないと信じている。イラクの軍事力は湾岸戦争時の半分以下。他国に脅威を与える状態では決してない。だが、わが国の豊富な石油をコントロールしたい米国は、時がくればあらゆる理由をでっち上げて攻撃しようとするだろう。
 
■  ■  

広島市民や日本人に訴えたいことは?

 米国は広島や長崎への原爆投下で、人類への犯罪行為を犯した。イラクに対する劣化ウラン弾による攻撃も、人体や環境に大きな影響を与え続けており、同じ犯罪行為だ。米英軍による新たなイラク攻撃は、湾岸戦争時以上の被害をイラク国民にもたらすだろう。

 一日夜の広島市民との対話集会では、イラクの被害実態を知ってもらうだけでなく、市民の反核平和への熱い思いが伝わってきた。その熱意が広がり、日本の市民や政府の圧力で、ぜひ米国がもくろむ戦争をストップさせてほしい。










■プロフィル■
ジャワッド・アル・アリ 1944年7月、イラク南部バスラ市生まれ。67年バグダッド大卒業後、英国ロンドンの医学ロイヤル・カレッジで学び内科医に。84年に帰国し、86年からバスラ市内最大のサダム教育病院の腫瘍学センター長兼教授。

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