■ハーウィット氏に聞く
米国・ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館は、なぜ一般公開する原爆投下機エノラ・ゲイに原爆被害の説明を拒み続けるのか―。一九九五年のエノラ・ゲイの部分展示に併せて原爆展を企画。退役軍人らからの猛反発を受けて辞任に追い込まれた当時の館長マーティン・ハーウィットさん(72)に、展示を巡る論争の背景を聞いた。(ワシントン岡田浩一)
―原爆による死傷者の数などの被害に一切触れず「技術の進歩の証し」として機体を展示する対応についてどう思いますか。
歴史的な意味を示さない展示は間違っている。私だったらそんな内容にはしない。
―B29爆撃機の中で、エノラ・ゲイを展示した理由は。
博物館が持つ機体がそれしかない。展示は約十五年前の計画。本館は狭く、床が重さに耐えられないため、九五年から三年間、機体の一部を展示した。復元に百億円余りをつぎ込んでいる点も挙げられる。
―博物館はなぜ、今回原爆被害の説明を避けたのでしょうか。
答えは簡単。九五年に計画した原爆展では、スミソニアン協会の理事や政治家の強い批判を浴びた。世界で最も人気が高い博物館で働くスタッフはとても傷つき、つらい経験だった。それを避けたいと思う現館長の気持ちは理解できる。
―小型核兵器の開発などを目指すブッシュ政権の影響も考えられます。
軍の地位と予算が上がり、博物館への圧力も増している。国民の一部には、現政権が軍事的に問題を解決する姿勢に怖さを感じ始めている。政権が変われば、状況はかなり変わるだろう。
―米国人はみんな原爆被害の展示を嫌がっているのでしょうか。
多くの人は、被害に目を向けるべきだとは思っている。しかし、現政権や政治家たちは「米国は善」という物語を見せたがっている。
―公正な展示を実現するには。
これまで、論争について公に発言していない有識者を仲介者に、軍関係者や歴史学者たちが会議を開いて対話をしてほしい。
<メモ>天文学者。米ニューヨーク州のコーネル大教授などを務め、87年に航空宇宙博物館の館長に就任。95年のエノラ・ゲイの一部展示に併せてヒロシマの実相を伝える原爆展を計画したが、退役軍人や政治家の猛反発で原爆展は中止。辞任に追いやられた。現在は、同大名誉教授として、宇宙開発の研究に取り組んでいる。
【写真説明】「ブッシュ政権や政治家は、米国は善だという物語を見せたがっている」と指摘するハーウィットさん
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