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被害説明求め抗議 エノラ・ゲイ公開で訪米の被爆者ら '03/12/17

 ■「エノラ・ゲイは負の遺産」

 【ワシントン15日岡田浩一】広島への原爆投下機エノラ・ゲイの一般公開が始まった米国ワシントン郊外のスミソニアン航空宇宙博物館新館で十五日朝(日本時間十六日未明)、広島県原水禁と日本被団協から派遣された被爆者たち七人は、原爆被害の説明抜きの展示に抗議の声を上げた。

 エノラ・ゲイの前に陣取った地元平和団体のメンバー約四十人は「ネバー・アゲイン・ヒロシマ」の掛け声とともに、被爆してやけどを負った人たちの写真や横断幕を掲げた。一部は、その場に寝転ぶ「ダイ・イン」で、原爆で亡くなった犠牲者を表現。博物館が説明しない原爆の被害を訴えた。

 メンバーの一人は機体に赤いペンキ缶を投げつけ、駆け付けた警察官に拘束された。一方、見学者から「祖父は第二次世界大戦で亡くなったんだ。帰れ」とば声が飛び、抗議行動を制止する警備員の声も加わって館内は騒然となった。

 その後、抗議に参加した人々は反戦歌を歌いながら屋外へ移動し、集会を開いた。広島で被爆した東京都国分寺市の西野稔さん(71)は「エノラ・ゲイは悪魔の兵器を運んだ。原爆の実相を添え、負の遺産として展示すべきだ」と訴えた。広島県原水禁常任理事の坪井直さん(78)が英語で「すべては一人のために、一人はすべてのために」と核兵器廃絶へ向けた日米市民の協力を呼び掛けると、参加者から拍手と歓声がわいた。

 ■米社会の歴史観象徴 討論集会で非難の声も

 米国の首都ワシントン郊外で十五日、広島への原爆投下機エノラ・ゲイの一般公開が始まった。展示に原爆被害の説明を添えようとしないスミソニアン航空宇宙博物館のかたくなな姿勢は、「原爆投下が戦争終結を早め、多くの人命を救った」という、今なお根強い米国社会の歴史観を象徴している。(岡田浩一)

 展示見直しを求めて渡米している被爆者で広島県原水禁常任理事の坪井直さん(78)にとっては、一喜一憂の旅が続いた。渡米翌日の十二日、秋葉忠利広島市長らのメッセージを携えて博物館を訪問した際は、ジョン・デイリー館長の出張を理由に門前払い同様の扱いを受けた。「山を動かすのは難しい」といきなり壁にぶち当たった。

 地元の平和団体が十三日にアメリカン大で開いた討論集会には、原爆問題に詳しい歴史学者や作家たち約百二十人が全米から集まった。坪井さんの被爆体験の証言に、会場は拍手で包まれた。

 討論集会で、あるコラムニストは「エノラ・ゲイの展示が示すように、ブッシュ政権の現在の米国は『核健忘症』にかかっている」と非難した。ヒロシマ・ナガサキの記憶を忘れ、小型核兵器の研究開発を始めようとしている今の流れを、鋭く言い当てた。

 それは、米中枢同時テロ以降、イラク戦争へとつながる米国の「力の論理」と通じる。エノラ・ゲイ一般公開の前日、全米はイラクのフセイン元大統領拘束の報に沸いた。ブッシュ大統領が英雄視されれば、小型核兵器を通常兵器のように扱う懸念がさらに強まる。

 五十八年ぶりに完全復元され、銀色の機体を誇示するエノラ・ゲイ。きのこ雲の下の悲惨は、見学者に想像してもらうしかない。「一九四五年の爆心地に帰ろう」。展示に反対する著名な歴史学者ジョン・ダワー氏の言葉の重みを実感した。

【写真説明】エノラ・ゲイの前で励ましにきた平和団体のメンバーと握手する坪井さん(中央)



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