被爆の遺伝的影響調査もスタート。被爆二世の男性を診察する放影研医師


被曝線量推定システム
 原爆が放出した放射線の総量と被爆者がいた地点をもとに一人一人の被曝線量を推定する。屋外にいたか、遮蔽(しゃへい)物はあったかなど、細かい要素も盛り込んで計算する。1980年代の日米合同調査により現在は「DS86」を利用しているが、2002年度版の「DS02」が新方式として承認された。広島原爆の出力は通常爆薬TNT換算で15キロトンから16キロトンに、爆発高度は580メートルから600メートルに修正されたが、個々の被爆者の線量にさほどの影響はない。
解明
 米国が一九四七年に広島に設立した原爆傷害調査委員会(ABCC)は、被爆者たちを対象に寿命調査(LSS)と成人健康調査(AHS)を始めた。いずれも放影研が引き継ぎ、被爆の後障害解明の基礎データとして蓄積している。
 寿命調査は、五〇年の国勢調査に基づいて抽出した広島、長崎市の被爆者約九万四千人と、非被爆者約二万六千人の計十二万人が対象。うち被爆者の大半は、被曝線量推定システム「DS86」を使い、被曝した線量が一人ずつ推定できている。入市被爆者は線量が少ないとの理由で非被爆者に含む。
 対象者が死亡した場合に死因を追跡する。ただ、かかりつけ医が「心不全」などと診断した場合は、個人情報保護もあって詳細な病状の追跡はできないのが現状だ。
 一方、成人健康調査はこの十二万人のうち約二万三千人を対象に、二年に一度のレントゲンや問診など健康診断を実施している。これまで実際に一度でも健診を受けたのは約一万六千人。
 二つの調査を通じ、線量に応じた疾患の発症率や死亡リスクを探った結果、例えば白血病は被爆者に多いことが分かった。三十歳のときに大腸が一シーベルト(広島で爆心地から約七百五十メートル)の線量を浴びると、非被爆者に比べ白血病での死亡リスクは五・九倍。被爆後の比較的早期に増え、その後は減少をたどるなどの経過も判明した。
 胃がんや肺がんなども線量が増えるほど多発する傾向にある。がん以外では、白内障や甲状腺良性腫瘍(しゅよう)で放射線被曝との関連性が早い時期から認められていた。
 また、被爆時の年齢が幼いほど、その後にがんになりやすいことも分かりつつある。〇・一シーベルト(広島の場合は爆心地から約一・二五キロ)を大腸に受けた被爆者でみると、十歳だった人のがんによる死亡リスクは、五十歳で被爆した人より数倍高い。
 DS86で線量を推定した被爆者約八万六千五百人のうち、九八年時点の生存者は48%。低年齢被爆者は今後も「がん年齢」が続く。五〇―九七年の死亡率データをまとめた最新の放影研の報告書は「今後数十年間、放射線影響の特徴について新たな重要な洞察が得られることは明らか」と結んでいる。
未解明
 がんでも、直腸がんやすい臓がんは線量との関連が認められていない。臓器や組織で差が出ていることについて、放影研の児玉和紀主席研究員・疫学部長は「放射線に対する感受性に差があるのか、調査期間や症例数不足なのか、まだ特定できていない」と話す。心血管障害やB、C型肝炎、糖尿病なども因果関係は不明で、研究を続けている。
 がんの発症メカニズム解明には、生活習慣との関連を調べる必要もある。喫煙しているか否かなど、放影研は寿命調査の対象者のうち、来年は新たなアンケートを予定している。また、遺伝子レベルでの解明に向け、二年前からはヒトゲノム(全遺伝情報)研究も始まった。広島、呉市内の八病院とネットワークを結び、がん細胞の収集を続けている段階で、被爆者のサンプル数はごくわずかだ。
 被爆二世への遺伝的影響も現段階では認められていない。放影研は〇一年五月、二世の健康影響調査をスタート。広島、長崎両市の約二万四千人を対象に、健康と生活習慣に関するアンケートを実施し、希望者には健康診断もしている。〇六年度末には中間報告をまとめる。

《放射線被曝と疾病》
【がん】
胃がん、肺がん、甲状腺がん、肝臓がん、結腸がん、膀胱(ぼうこう)がん、乳がん、卵巣がん、皮膚がん、白血病=被爆者に増加がみられる
食道がん、胆のうがん、多発性骨髄腫、神経系腫瘍=被曝と関連する可能性はある
直腸がん、すい臓がん、前立腺がん、子宮がん=被曝との因果関係はこれまでに認められていない
【がん以外】
甲状腺良性腫瘍、白内障、副甲状腺異常、リンパ球染色体異常=被爆者に増加がみられる
心血管障害、高血圧症、糖尿病、B・C型肝炎=研究中

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