核なき21世紀へはっきりと道筋 NPT再検討会議

'00/5/22 中国新聞地域ニュース

 【解説】人類が核兵器を開発した二十世紀を総括し、核のない二十一世紀 への道筋をどう示すのか―。核の惨禍を受けた被爆地にとって、時 代の節目に開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の焦点は そこにあった。その最終文書が、核兵器完全廃絶を明確に約束した 意味は重い。

 会議は、いつ実現するか分からない「究極的目標としての廃絶」 をきっぱり否定し、核を持つ国を含めた全会一致で「完全廃絶への 疑いのない約束」を誓った。核軍拡競争を繰り広げた二十世紀に、 国際社会はその総意で「決別」を告げたと言える。

 むろん政治的な約束であり、その実現は保有国の決断に委ねられ る。最終文書に盛られた軍縮課題の各項目にも、あいまいな表現、 実行しない口実となりかねない前提が多い。例えば、核軍備の透明 性増大の項目にある「自発的な信頼醸成措置として」のくだり。核 軍備の増強ぶりを隠したい中国には、自発的の言葉を言い訳に使え る。

 そうした核大国のエゴを認めないためにも、今回の再検討会議を 大げさなまでに評価し、記憶にとどめておく必要があろう。廃絶を 誓った保有国が、その取り組みを疑いなく進めるよう監視し、奨励 し続けなければならないからだ。

 その意味で、被爆国日本政府の姿勢はどうか。政府は「核軍縮に は段階的なアプローチが必要。保有国に敵対しては軍縮は進まな い」と言い続けて来た。

 今回、核保有国から明確な廃絶への誓約を引き出したのは、ブラ ジルやメキシコなど新アジェンダ連合(NAC)諸国の粘り強い交 渉だった。「疑いのない約束」を決して譲れない最低ラインの要求 として、イラク問題による空転で最終文書採択が水泡となりかねな い土壇場で、バーリ議長に真っ先に詰め寄ったのもNAC諸国だっ た。

 こうした、保有国に敵対する姿勢で勝ち取ったのが「疑いのない 約束」である。その主張は、大多数の国に浸透し保有国を包囲し た。米国の核の傘に安全保障を頼り、今回否定された「究極的廃 絶」を率先して言い続けてきた日本は、核否定へ向かう時代の潮流 を見誤っていたのではないか。

 核兵器の警戒態勢解除など、会議で取り上げられなかった核軍縮 課題も多い。インドやパキスタンの核実験・核開発に対し、最終文 書はこれを憂慮、非核兵器国としてのNPT加盟を要求したが、強 制力はない。

 NPTは前回九五年の再検討会議で無期限に延長され、それまで のような、延長を認めない主張と引き換えに核軍縮の約束を引き出 す非保有国の戦略は通用しにくくなった。その点でも今回のNAC の功績は大きい。同時に、廃絶を疑いなく進めるには、核兵器禁止 条約などNPTとは別の枠組みが必要なことも今回の会議は示して いる。(ニューヨーク江種則貴)


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