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「規制緩和に伴うコスト削減措置が、老朽原発の安全性低下を招 いている」と話すエリック・エプスタインさん(ハリスバーグ市)

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TMIAの事務所前に立つスコット・ポーツラインさん。「原発 はテロリストの標的になりやすい」(ハリスバーグ市)



[スリーマイルアイランド原発]

 1974年9月、1号機(加圧水型・出力約82万キロワット)が営業 運転を開始。78年3月28日に臨界に達し、年末に営業運転に入った2号機(加圧水型・出力約94万キロワット)は、臨界から丸1年後に炉 心溶融事故を起こす。

 溶融が分かったのは82年。溶融の度合いは最初の20%から89年に は約50%にまで達していたのが判明。同じ年に原子炉容器の亀裂も見つかり、最悪の事態寸前だったことが明るみに出た。

 2号機の建設費に7億ドル(約840億円)。事故後の損傷燃料取り出しに10億ドル(約1200億円)を出費。除染・解体作業にはな お莫大(ばくだい)な費用が見込まれている。TMI原発を操業のGPUニュークリア社の保険会社は、健康・経済・避難に伴う住民 の損害賠償請求に、3800万ドル(約45億6千万円)以上を支払った。

 79年以後運転をストップしていた1号機は、85年に再開。1号機 は98年から「アマージェン社」に、2号機は2001年から「フォースト・エネルギー社」にそれぞれ所有権が移っている。

中国新聞

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21世紀核時代 負の遺産
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スリーマイルアイランド原発 下

 テロ・事故 備え不十分 ■ 放射線測定 市民ら自衛
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1979年3月に起きた炉心溶融事故で、損傷した核燃料の一部 が残ったままのTMI原発2号機の原子炉建屋(中央)。23年後の今も解体のめどは立っていない(ペンシルベニア州ハリスバーグ市郊外)
 
 ペンシルベニア州の州都ハリスバーグ市の中心部を抜け、サスケ ハナ川沿いに北西へ十分ほど車を走らせると、閑静な住宅街の一角 に「スリーマイルアイランド・アラート」(TMIA)の事務所が あった。レンガ造りの民家を利用した玄関そばの壁には、他の二つ の市民団体の名前も掲げられていた。

 「一九七七年に生まれた草の根のTMIAは、名前の通りスリー マイルアイランド原発を監視し、市民に実態を伝えることで警報 (アラート)を鳴らし続けてきた。その役割は昔も今も変わってい ない」

 どっしりとした体つきのスコット・ポーツラインさん(43)は、一 階奥の事務所の机に何冊もの関連ファイルを重ね、歯切れよく言っ た。

 


 九三年以来、ボランティアでTMIA安全管理委員会の委員長を 務める。本職はピアノ調律師。が、「原発の安全性への個人的な関 心」から、さまざまな文献に当たるなど二十年近く独自調査を続け てけてきた。

 七九年三月に起きた二号機の部分的炉心溶融事故。TMIAのメ ンバーは、冷却水の配管の水漏れなどについて作業員らから情報を 得て、事故の危険を一年前の臨界達成時から訴えていたという。

 「TMI原発は建設時から現在に至るまで多くの問題を抱えてき た。最近ではコスト削減を目的に大幅に人員を減らし、熟練の作業 員が辞めるなど安全管理への不安が高まっている」とポーツライン さん。

 彼によると、稼働中の一号機だけで八百人以上いた従業員が最近 四年間で約六百人にまで減少。減員に伴う穴埋めのための長時間労 働が重なり「ストレスから辞める人や、労働者の士気が下がってい る」と指摘する。

 その一方で「職を失わない」ために、作業工程に問題が見つかっ ても、「内部告発」と取られかねないような訴えをしないよう自己 規制が働いているとも。

 麻薬の使用、就労中の居眠り、作業中の被曝…こうした 事例も後を絶たないという。

 にもかかわらず、原子力規制委員会(NRC)は、最近実施した TMI原発一号機の運転状況について「良好」とのお墨付きを与え た。作業工程や設置機器について以前よりも「向上した」との判断 からである。

 「われわれ市民の立場からすると、NRCの査察自体がどこまで 信頼できるかとの疑問がぬぐえない。とても安心できる状態ではな い」とポーツラインさんは語気を強めた。

 テロなどに対する警備体制も不十分だという。その一例として彼 は、九三年二月七日に起きたTMI原発への侵入事件を報じる新聞 記事を取り出した。

 トラックを運転していた男が、開いていた正面ゲートを突破し、 防護フェンスを打ち破ってタービン建屋の巻き上げドアに激突。四 時間近く地下の暗やみに潜んで捕まらなかった。犯人は精神障害者 で、破壊活動などの大事には至らなかった、とその記事は伝えてい た。

 「ところが、この事件から四カ月後の六月に私は、TMI原発か ら三十マイル(四十八キロ)北西にイスラム原理主義者の訓練キャンプ があることをFBI(連邦捜査局)の捜査から知った。すぐにNR Cに電話連絡し、TMI原発の警備を強化するように訴えた。で も、その警告は無視された」

 FBIが捜査していたのは、この年の二月二十六日、ニューヨー ク市の世界貿易センター(WTC)で起きた爆破事件の犯人であ る。死者六人、負傷者千人以上を出した事件は世界に衝撃を与え た。

 「実際、FBIが実行犯として後に逮捕したイスラム原理主義者 四人の中に、民間人所有地のこのキャンプで訓練を受けた若者が含 まれていたんだ。全員で十人はいたと言われている」

 ポーツラインさんは九四年二月、「市民専門家」としてNRC原 子炉安全諮問委員会で証言。訓練キャップの存在について言及する と、事実を知る委員はひとりもおらず、驚きを示すばかりだったと いう。

 「私は八カ月前にNRCに情報を提供した経緯を説明した。しか しその情報は内部で共有されることもなく、立ち消えになっていた のだ。信じがたいのは、FBIが原発の安全性を監視するNRCに も、当時原発を所有していたGPUニュークリア社にも事実を知ら せていなかったことだよ」。ポーツラインさんはあきれ顔で言っ た。

 TMI原発の約四キロ北には、ハリスバーグ国際空港がある。風 向きによっては、原発の上空百メートル以内の低空をジェット旅客 機が飛んでいく。

 昨年九月の中枢同時テロ事件から一カ月余りたった十月十七日に は、陸か空から原発攻撃があるかもしれないとの「信頼できる情 報」に基づいて、三機のF16戦闘機が原発上空を旋回。空港は四時 間にわたって閉鎖された。

 「現実はテロ攻撃がなくても、通常の旅客機の離着陸だけで十分 に危険な状況にある。ましてや内部犯行によるサボタージュ(破壊 行為)となると、TMI原発に限らず、どこの原発でもほとんど防 止のしようがない」

 機関紙発行、ホームページ、市民向け集会、がんなどの発病者へ の相談窓口…。幅広い市民の寄付で支えられたポーツラインさんら TMIAの四半世紀に及ぶ活動は、州議会やハリスバーグ市当局、 地元紙などから「価値ある役割を果たしている」と高い評価を得て いた。

 具体的な事例を挙げてのポーツラインさんの説明には、説得力を 超えて、どこか薄ら寒いものさえ感じた。

 


 彼と別れた後、TMIA事務所にほど近い職業教育センターにエ リック・エプスタインさん(42)を訪ねた。センターの主任講師とし て経済的に恵まれない子どもらの教育に当たる傍ら、市民組織の 「EFMRモニタリング・グループ」のコーディネーターを兼務。 TMI原発一・二号機の放射線レベルを自動測定している。

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ベイカーさん宅に設置された放射線測定モニター用のコンピュー ター画面。緑の丸が測定個所で、放射線レベルが上がると赤くなる(キャンプヒル市)
  

 「GPUニュークリア社と交渉して、社の出費で九二年から大気 中のガンマ線のモニターを原発から半径四マイル(六・四キロ)の 十六カ所の地点で行っている。一時間毎に放射線レベルを測定し、 コンピューターシステムで自動的に記録できるようになっている」

 授業の合間をぬって取材に応じてくれたエプスタインさんは、エ ネルギーを全身にあふれさせながら早口で言った。

 「これで会社に依存しなくても、市民の手でようやく放射線放出 量の異常をつかむことができるようになった。二回の痛い教訓から 生まれた一つの解決策なんだ」

 彼が言う「痛い教訓」とは、七九年の二号機の事故時の放射線放 出量が「膨大な量」に達しながらそれを裏付けるデータがないこ と。もう一つは事故時に炉内にたまった八千七百キロリットルもの 放射性廃液を、NRCが許可を出し、九〇年に大気中に蒸発させて しまったことである。

 「廃液にはトリチウムをはじめ、セシウムやストロンチウムが含 まれていた。川への投棄は裁判で阻止できたが、大気へ蒸発させる という無謀なやり方を止めることができなかった。結局、周辺住民 は二度にわたって相当量の被曝をしながら『わずかに放射線を含ん でいるだけ』という会社側のごまかしを覆せなかった」と悔やむ。

 エプスタインさんのグループとは別に、前回の記事で紹介したダ ウン症の子どもを持つデビー・ベイカーさん(45)らが実施している 「市民モニタリング・ネットワーク」という別組織も、九四年から 計二十一カ所の個人の家の外壁などにガンマ線とベータ線の測定器 を設置。十五分毎に各ポイントでデータを記録し、コンピューター ・ネットワークで記録を集計している。

 後者はGPUニュークリア社を相手取って起こした集団訴訟の示 談解決の一項目に含まれていたもの。システム開発に五年を要し た。

 「モニターを始めてからは、核燃料の交換時や放射性廃棄物の運 搬時を除けば自然放射線レベル内にあり、大きな事故は起きていな い」とエプスタインさん。モニター装置の設置は市民にとって「安 心材料」であると同時に、事故の際の素早い避難や被害に対する補 償要求の裏付けになるという。

 


 だが、エプスタインさんは、それだけで問題が解決したわけでは ないと強調する。

 「もっと大きな問題は、高レベル放射性廃棄物を炉内に抱えた二 号機の解体をどうするかだ」。鋭いまなざしを向けながら彼は続け た。

 「今は安全に解体するだけの技術がない。廃棄物を捨てる所もな い…。チェルノブイリ原発のように石棺にして川の中の島に残すの が会社にとって一番安上がりだろう。しかし、洪水地帯に何百年も 高レベル放射性物質を保管することなど住民には到底受け入れられ ない」

 二号機の処理をどうするか。会社にも住民にも、いい知恵がな い。敷地内には約三百トンの使用済み核燃料も保管されたままであ る。

 エプスタインさんは憂いを漂わせながら重い口調で言った。

 「テロや事故の怖さを含め、これがわれわれ世代がつくり出した 核時代のジレンマだよ。でも、そこから目をそむけるわけにはいか ない…」

  


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Negative legacy of nuclear age