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平和のゲーム
楽しんで学ぶ

平和について楽しく学べるゲームをテーマにしました。「ゲーム」というと遊びの感じがしますが、実は教育用にいろんなものがあることが分かりました。教室で意見を述べあうものから、パソコンを使うものまでさまざまです。

核兵器をはじめ貧困、飢餓など世界中の課題を取り上げ、多くの団体が作っています。

今回、そのうちの5つを取材しました。ジュニアライターも体験し、それぞれの問題に関心を持ちました。

子どもを対象にした平和のゲームがたくさんある背景には、大人たちからの期待があると思います。つまり知識を覚えるだけではなく、現地の人の思いを感じたり、国際支援の難しさを知ってもらい、自分たちの問題として考えてほしいと考えているんだと思います。その積み重ねと広がりが、いつの日かみんなが平和と感じられる地球へと導いてくれるのではないでしょうか。

1960年代には存在 最近はネット利用型増加

「平和のゲーム」にはどんなものがあるかなどについて、立命館大国際関係学部の秋林こずえ准教授(40)=平和教育=に聞きました。「世界中に数えられないくらいある」そうです。

1960年代にはもう米国や英国にありました。米国では人種差別がいかにひどいことかを考えるため、クラスを目の色で2つに分け、片方のグループを優秀、もう一方を劣っているとして差別的に扱ったゲーム「青い目 茶色い目」が代表例だそうです。

英国では、南半球の貧困の原因は先進国にあるということを伝えるため、格差などを考えるゲームが生まれました。

日本では80年代から、知識を覚えるのではなく、自分の頭で考えてもらおうと、ゲーム形式での平和教育が導入されました。

最近の傾向では、先進国は、インターネットを使った双方向型が増えています。米国では、移民の増加などを背景に、多文化理解や相手の気持ちを思いやるゲームが主流になっているそうです。

秋林先生はこれらの平和のゲームを大きく4つに分類します。(1)疑似体験をするロールプレー型(2)キャラクターや駒を動かすシミュレーション型(3)インターネットを使う双方向型(4)簡単なクイズやカードを使うベーシック参加型です。

課題としては、ゲームを通じて参加者がもっと世界の問題やその背景に想像力を働かせる工夫が必要だと指摘しています。(高1・見越正礼)


巨大魚が現れた
広島なぎさ中・高
「格差の広がり」生々しく

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ゲーム「巨大魚が現れた」を体験

広島なぎさ中・高(広島市佐伯区)のクラブ活動の一つである国際部は先生の指導の下、ゲーム「巨大魚が現れた」を作りました。アフリカ中部のビクトリア湖が舞台で、貧困などの現状を知り、私たちの生活とも結びついていることを実感できます。

ジュニアライター4人も参加し、国際部員を含めた計7人でやってみました=写真。格差がどんどん広がり、所持金が無くなって脱落する人もいました。

最後に、司会役が日本にも輸入されている巨大魚ナイルパーチについて説明します。ゲームの内容は現実で、私たちの食べているものが、遠いアフリカの生活と結びついていると伝えます。ジュニアライターの一人は「働いてもお金がたまらなくて悲しくなった。何もしないのに稼ぐ人がいるのは不公平」と感想を話しました。

国際部部長の高校2年岡本嵩大さん(17)によると、ゲームを作ったきっかけは2006年に「ダーウィンの悪夢」というドキュメンタリー映画を見たことです。貧しくて食べ物を買えず、輸出の時に捨てられた、ナイルパーチの骨に付いているわずかな肉を食べる人がいるなどと知ってショックを受けました。

映画を通じて、ナイルパーチの輸出先の一つが日本であることや、白身魚のフライとしてレストランや社員食堂で調理されていることを知りました。国際部ではナイルパーチを実際に買って試食もしました。

この現実を多くの人に分かりやすく伝えようと、カードを使って同じような体験ができるゲームにすることを考え、今年1月に初めて披露しました。広島女学院高などでもワークショップを開いています。

私はこの国際部に所属しており、制作に携わりました。ゲームを体験する人に、私たちの食べる物の先に格差が生まれていることなどを意識し、自分に何ができるのか考えてもらいたいと思います。(中3・岩田皆子)


《内容》5人以上が向かい合って進行する。1人がビクトリア湖周辺の1家族(人数は配られるカードに書いてある)。カワスズメを釣って暮らしていたところ、司会役の「(外来魚の)ナイルパーチが放流された」との宣言をきっかけに、所持金の多い2人が網元と、加工する工場経営者になる。ほかの人は漁師を続けるか、工場または網元の下で働く。サイコロの目によって失業したり、病気になったりし、網元や経営者と、働く人の貧富の差が拡大。社会が不安定になる。

平和のハト
ノーベル財団
核保有国の知識 クイズで

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©Nobel Web 2008

ノーベル財団はホームページに、クイズに答えることで核保有国について学ぶ「平和のハト」=写真=を2003年6月から公開しています。

「4番目に多く核兵器を持ち、3つの保有国と接している国は」などの質問が出ます。ハト同士の会話で「1967年発効の宇宙条約で核兵器を宇宙に配備したり、地球をまわる軌道に乗せることは禁止された」などと学ぶこともできます。

英文は短いため何とか理解できました。

核兵器に関連するノーベル平和賞受賞者の業績を読むこともできます。脚本を担当した財団関連会社のカリン・スバンホルムさんは「受賞者の発明や活動を広めることが私たちの役割。教育的なゲームを作り好評だったので、核軍縮版も作った」と説明しています。(高1・土田昂太郎)


《内容》クイズで核保有国の歴史や現状を学ぶ無料オンラインゲーム。保有国の核兵器に関する質問に対し、該当する国を選ぶ。宇宙船にいる8羽のハトがその国に飛び、「軍縮」するという設定。英語版しかなく、15歳以上が対象。終了後には、それぞれの国が保有している核兵器の数(2003年現在)などが表示される。URLは、nobelprize.org/educational_games/peace/nuclear_weapons/

模擬裁判ゲーム
徳島のNPO法人TICO
アフリカ支援 現状伝える

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徳島県吉野川市の特定非営利活動法人(NPO法人)TICOは、アフリカ支援の現状を伝えるために、模擬裁判のようなゲームを作りました。援助する側とされる側が主張しながら学びます。

原告側と被告側には、支援内容や現地の人の収入などを書いた資料=写真=が渡され、参加者はそれを見ながら意見を考えます。

援助物資の配水用ポンプを無断で売ったケースでは、原告側は「みんなで使ってほしいと設置した」。被告側は「干ばつで水がなくなり意味がなかった。食べ物を買うためにお金が必要だった」などと主張します。

代表の吉田修さん(50)は「その立場になって意見を考えると現状を深く理解できる。支援の難しさを感じ、よりよい支援を考えるきっかけになれば」と話していました。(中2・高木萌子)


《内容》現地の人と支援団体の思いを裁判形式で主張しながらアフリカ支援の現状を学ぶ。ザンビアなどで医療や農業支援をしているTICOの活動中に実際に起きた事件などを題材にしている。小学高学年以上が対象。5人または7人が原告と被告、裁判官に分かれ、支援内容や給与などのデータを基に、なぜ事件が起きたかなどの主張をしあう。裁判官は、原告と被告のどちらを支持するか判決を出す。一事件約20分。有料で講師派遣する。

FOOD FORCE
国連世界食糧計画
パソコンで食料支援体験

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WFPホームページから

国連世界食糧計画(WFP)のゲーム「FOOD FORCE(フードフォース)」=写真=は食料支援活動を疑似体験できます。自宅や学校などのパソコンで気軽に挑戦できます。

6つの課題のうち、飛行機からの食料投下が印象的でした。風向きがすぐに変わる中、決められた範囲に食料を落とさないといけません。実際に作業をしている人の苦労が分かりました。

また、内戦が終わっても地雷を撤去したり、橋を修理したりするなど、食料を届けるには問題がたくさんあり、いろいろな任務を果たす人が必要なことも分かりました。

WFP日本事務所の保田由布子広報官(34)によると、世界では、5歳未満の子どもが6秒に1人の割合で亡くなっています。保田さんは「先進国の子どもは飢えについてイメージしづらいので、子どもに身近なゲームで飢餓や食料支援について肌で感じてもらうために作った」と説明します。

英語版が2005年4月に完成し、15カ国語版ができています。今年6月までにCDを配ったり、ダウンロードしたりして利用した人は世界で1000万人以上と推計しています。日本語版は05年10月にできました。(中1・坂田弥優)


《内容》ホームページからダウンロードし、支援活動を疑似体験する。災害が発生し、内戦も激化したインド洋に浮かぶ架空の島、シェイラン島が舞台。(1)空から食料支援が必要な人を探す(2)決められた金額で栄養が十分になるよう食料を配合(3)飛行機から食料を投下(4)半年先までの食料を、世界各国から調達、搬出―など6つの任務をこなす。ゲームの得点は、かかった時間や正確性で判定される。
日本語版のURLはwww.foodforce.konami.jp/

まちがいさがし
日本赤十字社
最低限の人道 絵から学ぶ

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戦場でやってはいけないことを定めたジュネーブ条約を題材にした「まちがいさがし」ゲームです。極限の状況であっても守るべきルールを知り、人としての道を考えてもらうため、日本赤十字社が1999年、学校教育用に作りました。

市民団体「地球市民共育塾ひろしま」はワークショップでも取り上げ、ジュニアライターも参加しました=写真

「人道」というと難しそうですが、他人の財産を奪わないとか、救護所を襲ってはいけないなど、当たり前に思えることが示してあり、答えやすかったです。

共育塾会員で、進行役を務めた脇谷孔一さん(49)は「人として何をしてはいけないのかをみんながしっかり考えていくと、戦争はなくなるはず」と話していました。(小6・白川梨華)


《内容》戦場を描いた1枚の絵を見ながら、ジュネーブ条約(国際人道法)を学ぶ。日本赤十字社が学校教育用に作った。「民家を攻撃する」「井戸に毒を入れる」「食事を与えず捕虜を働かせる」などの場面や、「けが人を運ぶ」「支援物資を配る」など合計12の絵があり、一つ一つについて「間違い」かどうか判断する。最初は参加者個人で考え、チーム内で答え合わせをしながら議論。最後にチームとしての答えを発表する。