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■特集 第1陣 メンバー座談会
イラン訪問を終えて 特別編集委員 田城明 '04/6/6

 ■交流と信頼 核の誘惑断つ  米の公正な政策カギ

 広島世界平和ミッション第一陣のイラン訪問には厳しい制約、取材規制がつきまとった。イラン外務省に申し入れた平和交流や会見希望のうち、実現したのはごく一部にすぎない。核兵器開発疑惑が持ち上がっている核問題については、予測していたとはいえ原子力専門家や担当の役人らとの会見、施設見学といったことは不可能だった。

 イランでの平和ミッションの交流の様子などを紹介した連載「ベールの向こう」が五日終わったのを機に、あらためてイランの核開発問題に触れておきたい。

 ▼露が原発に協力

 イランの原子力開発はパーレビ王政時代の一九七〇年代にさかのぼる。旧西ドイツの技術協力で七四年に、ペルシャ湾に面したブシェールに原子力発電所の建設を手掛けた。

 しかし、三年後に起きたイスラム革命で建設は頓挫。イラン・イラク戦争中には、建設中の原発までイラク機の攻撃を受けた。現在はロシアの協力で百万キロワット級の原発建設を進めており、二〇〇六年の本格稼働を目指している。

 米国などが「イランは核兵器開発をしている」と厳しく批判しているのは、ウラン濃縮施設や重水製造施設などを秘密裏に建設し、核兵器開発に必要な物質の入手や研究をしているという理由からだ。

 国際的な圧力が強まる中で、イランは昨年十二月に国際原子力機関(IAEA)の追加議定書に署名。IAEAの査察に協力してきた。

 核問題の対外交渉責任者のハサン・ロウハニ最高安全保障委員会事務局長は今月二日、査察に基づくIAEA報告書が十四日の同理事会に提出されるのを前に「報告書はイランの核関連活動が平和目的であることを明確にするだろう」との声明を出した。しかし、これまでの査察によりウラン濃縮施設の環境サンプルから、高濃縮ウラン(濃度36%)が検出されていたことが判明している。

 イランが過去に核兵器開発への誘惑にかられ、そして今なおその思いが続いていたとしても不思議はない。イスラエルの核兵器保有、核開発を試みたフセイン政権下のイラク、ペルシャ湾やアフガニスタンなど近隣諸国で一段と軍事的存在を強める米国、インド、パキスタンの核保有…。

 ▼二重外交に怒り

 周辺諸国からの核脅威に対し、「核兵器」で自国の安全保障を高めようとするのは、従来からの「力の政策」「核抑止力」という思考から抜け出せないとすれば、自然な成り行きともとれる。

 誇り高いイラン人にとって、とりわけ我慢ならないのは米政権のダブルスタンダード(二重基準)外交である。

 核拡散防止条約(NPT)に加盟していないイスラエルの核保有に対しては一切批判をせず、なぜNPT加盟国であるイランの「平和目的のための原子力利用」(ロウハニ氏)にだけは厳しいのか。なぜ、核超大国アメリカのさらなる核開発は認められるのか…。こんな思いは、改革派、保守派を問わずイラン人に広く共有されている感情である。

 イランの核兵器開発への道を断ち切るために、ブッシュ米政権が力だけでイランを押さえ込み、国際社会から孤立させようとするような政策は、かえってイラン人の反発を招き、逆効果にしかならないだろう。混迷するイラクの現状を見ればあまりにも明らかである。

 いま必要なのは、中東における脅威を相互にいかに削減するか、そのために米国がどれだけこの地域で「公正」な政策を取れるか、そのことが大きなカギを握っていると言える。

 国際社会にとって孤立や断絶よりも、関与政策をより進めることが重要である。IAEAの査察だけでは不十分なのだ。

 経済、文化、スポーツなどさまざまな分野でイラン人との交流を深め、信頼関係をはぐくむことが、核兵器保有への誘惑を断つ確かな道であろう。そのために民間人や非政府組織(NGO)が果たす役割は小さくない。

 「文明間の対話」を提唱し、「開かれた社会」を目指すハタミ政権だが、今年二月の総選挙での保守派の大勝が示すように、その歩みが後退したかにみえる。

 平和ミッションの一行は、そんなイランの厳しい一面にも触れながら、核戦争の被害実態や「核兵器では平和が守れない」ということをイラン人に訴えた。そして少しでも「ヒロシマ」を伝える場が増えるようにと、陰で交流の機会をつくるために奔走してくれた人々もいた。

 こうした人々とのつながりを大切にし、平和交流を継続していくことが、イランのみならず核拡散防止の道へとつながるに違いない。


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