丘の上に立つ。谷間を流れる川の両岸に、異国情緒たっぷりの古都が広がる。向かいの丘の斜面は、白い墓標で埋め尽くされていた。
紛争中、四年間近くも包囲され、打ちのめされた街サラエボ。生々しい傷跡と穏やかな日常が混在する姿が、今のボスニア・ヘルツェゴビナを象徴している。
広島世界平和ミッション(広島国際文化財団主催)のメンバー四人は昨秋、復興を目指すこの国を巡った。
訪れる街々で銃弾の跡を見た。削らんばかりの執拗(しつよう)な攻撃にさらされた建物がいまだに残り、民族間に横たわっていた憎しみと不信感、恐怖心の深さをにじませている。
イスラム教、カトリック、セルビア正教と三様式の墓標が並ぶ墓地もあった。大半は、紛争が吹き荒れた一九九〇年代中ごろの年号が刻まれていた。
悲劇に押しつぶされそうになったメンバー。いつも癒やしてくれたのは、変わらずにあった美しい山河だった。
人々は日本をはじめ各国の手を借りながら、「一つの国」の再建に向けて歩み始めている。真の「和解の橋」が心に懸かる日は、きっと来る。(文・岡田浩一、写真・野地俊治)
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