中国新聞


【社説】いじめ防止法
現場目線でどう生かす


 子どもの心を傷つけ、自死にまで追い込むいじめをなくす。小中学校にとって、そのスタートラインになるだろうか。

 与野党6党が共同で国会に提出していた「いじめ防止対策推進法」が可決、成立した。

 大津市の中学生がいじめを苦に自殺した事件が法制定を後押しした。父親が「息子や天国にいる多くの子どもたちと法律の行方を見守っていきたい」と語った意味をかみしめたい。

 いじめは深刻な人権侵害である。防止法の制定過程を通して「決して許さない」というメッセージが社会に発信された意義は大きい。

 それは、いじめをタブー視することではない。大津の事件が浮き彫りにしたのは、事実を隠そうとする市教委と学校の姿勢だった。

 いち早く子どもの異変をキャッチし、情報を共有して迅速に対応する。学校現場は対策の基本を再確認し、徹底して行動に移してもらいたい。

 いじめは児童、生徒の間で起こり、一方が心身の苦痛を感じている状態だと防止法は定義。「重大事案」では文部科学省や市町村長への報告を学校に義務付ける。警察との連携も明記した。

 注目されるのは、心理や福祉など外部の専門家らを加えた対策組織を各学校に常設することだ。第三者の視点を交えることで風通しの良い学校づくりにつながるよう期待したい。

 ただ国は、人数や設置時期などの具体像を示していない。中国地方でも設置はこれからだ。

 子どもと保護者や民生委員からなる「いじめ撲滅プロジェクトチーム」が昨年発足した呉市の小中学校のように、既に独自の対策を実行している現場も少なくない。教委や学校は既存の施策とも調整しながら、対策組織の早期設置を期してほしい。

 近年、深刻なのがインターネットを通したいじめである。相手を中傷する匿名の書き込みや、いじめの様子を捉えた映像などが瞬時に拡散していく。

 そこで防止法はネットいじめの監視強化を打ち出した。とはいえ、書き込みや画像がネットで広まる前に手を打つのは、たやすくはないはずだ。

 心配はまだある。法に基づく現場の業務が極端に増えれば、教師はますます多忙になる。子どもと向き合い、かすかなシグナルを感じ取る余裕が損なわれては、元も子もない。マンパワーと予算をどう裏付けるか、国の姿勢が問われる。

 法律ができただけで、いじめが一掃されるわけではない。しかも、子どものいじめ対策が難しいのは、加害者と被害者、傍観者が容易に入れ替わる点だとの指摘もある。教師が日頃から信頼関係を育まなければ、どんなに相談体制を整えても子どもは心を開くまい。

 参院採決では共産、社民両党が反対に回った。加害者の出席停止といった厳罰は逆効果、などの理由である。確かに過度な管理ばかりではマイナス面も出てこよう。要は、子どもの声をどこまで対策に反映できるか、ではないだろうか。

 法に基づき各学校は「いじめ防止基本方針」を定めることになる。そこに子どもを主体的に参加させるのも一案と思える。祖父母らを含めた幅広い保護者や地域の人たちも、わが事として関わりたい。

(2013.6.26)


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