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たゆまず歩む 地域とともに 中国新聞

「いいお産 考」

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 第1部 産む人たちの思い

4.自然のリズム
− 命を実感 自分の力で −

始まる子育てに心のゆとり


  座って寝て陣痛待つ

  「出たー、出たー。やったー、ありがとう」。愛媛県今治市の阿部みきさん(38)は、産み終わった瞬間、叫んだ。子どもの頭、肩、尻が順番に出てくるのをリアルに感じた。そして、これまでの痛みが急になくなる。体が宙に浮いたような感じ。音も聞こえず、違う世界にいるみたいだった。「気持ちよかったー」

 昨年七月、三人目の倭(やまと)ちゃんを産んだ場所は、市内の日浅産婦人科医院。陣痛を和らげようと、院内の風呂に家族で入った後に、個室へ。いすに座ったり、ベッドに横になったり…。自由に姿勢を変えながら陣痛を感じ、次第に強くなるのを待った。いわゆる「フリースタイル出産」。最後は、ベッドで横向きになって産んだ。

 「自分で産んだっていう感じがある」。分娩(ぶんべん)台で産んだ長女(5)のときとは、比べものにならない達成感があった。「お産がよかったら、心にゆとりができ、すぐ始まる子育てに臨める。それって、産む人にも子どもにも、とても大切なことだと思う」

 同医院は、分娩室の分娩台は使わない。入院用の個室十三室がそのままお産の場になる。中四国地方でもユニークな試みだ。

 以前は分娩台を使っていた。しかし、産婦が体を動かしにくい。加えて、あおむけになると、血管が圧迫され、胎児の心音低下が起こりやすくなり、専用器具を用いて分娩を促す吸引・鉗子(かんし)分娩などにもつながりやすいと判断。自由な姿勢で、母子の自然なリズムを重視する出産法「アクティブバース」に切り替えた。

 日浅毅院長(59)は、その実践から「母親と赤ちゃんのペースに合わせて『待つ』ことが重要。医療側の都合で産む日や時間を左右するのは、どうかと思う。自然に任せば、不必要な医療介入は減らせる」と指摘する。

 同医院では、陣痛促進剤の投与はわずか3%程度。帝王切開も一割弱。赤ちゃんを出やすくする「会陰切開」も初産婦の場合、ほぼ全員に実施している医療機関もある中で、約三割にとどまり、「医療介入の割合は低い」と説明する。

 日浅院長は「これまでの産科医療は安全だけに固執し、お産の精神的な部分が欠落してきた。お産の達成感は、子どもへの慈しみとともに、次も産みたいという気持ちにもつながる」と話す。医師不足から産科医療の現場がより多忙になる中、「『効率』が優先され、さらに待てなくなる可能性もある」と危惧(きぐ)する。

いろいろな産み方分かった


  和室で思いのままに

 広島市西区の香月産婦人科は、二〇〇五年七月の移転を機に、「フリースタイル出産」を本格的に導入した。新病棟には自由な姿勢で分娩できる「和室」を二部屋設置。〇六年は38%の妊婦が和室での分娩を希望した。

 長女(4)を別の病院の分娩台で、二女を〇六年十一月、香月産婦人科の和室で産んだ西区の菅田亜紀さん(32)は「お産のやり方が全く違った」と振り返る。長女のときは、「言われる通りに動いたので、分かりやすかった」。陣痛がつらくて声を出すと、音楽に合わせた腹式呼吸を指導され、いきみ方も指示があった。逆に、二女の出産では、ほとんど指示らしい指示がなかった。

 「どっちが『楽』なんでしょうね。ただ、二女のときは、自分自身でお産する、という感じがしました」と菅田さん。「いろいろな産み方があるんだと、経験して初めて分かった。これから産む人は、経験談を聞いて選ぶといい」と話す。

 香月産婦人科は、分娩台のある分娩室も備えており、こちらの利用も42%に上っている。「お産は個々別々で、比べることはできないし、縛ってはいけない」と香月孝史院長(38)は指摘する。「母親と赤ちゃんが元気で、産む人が納得するお産が一番。そのための選択肢を、私たちは提示したい」(平井敦子)

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グラフ「2005年1月の毎日の出生数」

曜日別出生数 厚生労働省の統計から2005年の毎日の出生数を曜日別にみると、土曜、日曜、祝日が少ない。水曜や火曜など出生数の多い曜日の6―7割程度にとどまっている。この傾向は、1月から12月まで同じだった。特定非営利活動法人(NPO法人)「お産サポートJAPAN」(東京)の副代表の加納尚美茨城県立医療大助教授(助産学)は「本来、子どもは曜日に関係なく、満遍なく生まれるはず。土曜や日曜、祝日の出産が少ないこのデータは、陣痛促進剤などの使用で『管理されたお産』が定着している現状を浮き彫りにしている」と分析。「こうしたお産の実態を妊婦の心身や社会的状況から再検討してみる時期が来ているのではないか」と指摘している。

2007.1.8