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新生児の放射線遺伝影響
発足前に調査準備 ABCC 米、地元と協議

 放射線影響研究所(広島市南区、放影研)の前身、原爆傷害調査委員会(ABCC)が被爆の 遺伝的影響を探るため、発足前年の一九四六年から広島市や呉市、助産師らと新生児調査の打ち 合わせを重ねていた経緯を示す文書が、米国で見つかった。放射線が遺伝的影響をもたらすこと は戦前の動物実験では知られていたが、米国が早い段階から被爆地調査を周到に準備していたこ とは、原爆投下前後に既に人体影響を予見していた証左の一つと言えそうだ。

 広島市立大広島平和研究所の高橋博子助教(38)がこのほど、テキサス大テキサス医療セン ター図書館の所蔵文書を現地調査し入手した。四七年三月に発足したABCCは四八年から六年 間、新生児七万七千人を対象に異常の有無などを調べ、被爆者と非被爆者の子どもの間に明確な 差はないと結論づけた。

 見つかったのは、調査のため行政担当者や助産師の協会役員を集めて開かれた連絡会議録、助 産師らに交付した「調査委員カード」など。

 会議は四七年末までに少なくとも十七回開催。四六年十二月十九日付は米国の科学者、広島市 保健課長、遺伝学者、助産師リーダーら十二人が出席。米国の遺伝学者ジェームス・ニール氏が、 流産や死産、奇形増加の有無について「極めて正確な記録を取る」必要性を説明し、広島市保健 課長が「被爆後の出産をもれなく調査票に記入し、奇形は必ず報告する」よう求めている。

 また、この市保健課長が出した調査票の「記入注意」文書には、「家庭の希望により隠蔽(い んぺい)せざるよう特に注意下さい」などとも記されている。

 また、被爆地と比較調査地点に選ばれた呉市の産科医、助産師らを対象とした四八年三月十三 日付の会議メモには「カードが発行される」「ユニークな科学的貢献を行う意識を高める試み」 などと記されている。

 高橋助教は「自治体が協力したのは米占領下では自然の流れだろう。調査手法は広島市が提供 したようだ」と分析。調査委員カードの発行は「調査の機密性を保ちつつ調査員としての意識を 高め、協力を促すためではないか」とみている。(森田裕美)



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