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原爆残留放射線の人体影響
ABCCに否定調査促す 米原子力委、研究書簡で判明

 米エネルギー省の前身で核開発を担った原子力委員会(AEC)が一九五九年、原爆の残留放射線 の人体影響を「否定」する目的で、放射線影響研究所(放影研、広島市南区)の前身の原爆傷害調査 委員会(ABCC)に被爆者調査を促していたことが、米テキサス大テキサス医療センター図書館所 蔵の文書から分かった。調査は併せて、当時の米国が太平洋で実施した核実験の影響を測るのが目的 とみられ、被爆者データを核開発に利用しようとした米国の姿勢を裏付けていると言えそうだ。

 見つかったのは五九年九―十月に、AEC関係者とABCC研究者らが交わした書簡やメモ類。

 AEC傘下のブルックヘブン国立研究所のロバート・コナード医師は、ジェームス・ホリングワー スABCC臨床部長あての九月二十九日付書簡で、ホール・ボディー・カウンターを使った被爆者の 残留放射線調査について「何も検出されないでしょうが、否定的な結果で十分なら、何人かを計測し 判断するのが賢いやり方でしょう」と主張。コナード氏の同僚の科学者も同日、ホリングワース部長 に「否定的なデータは有益」と調査実施を促している。

 コナード氏はさらに十月二十六日付で上司の医学部長に、ABCCでの調査が「(マーシャル諸島 での米国の)核実験に伴う放射性降下物の体内蓄積について有用な結果を得ることができる」などと 進言。こうしたやりとりを受け、ホリングワース部長が上司である当時のダーリングABCC所長に 調査を提案したことが、十月三十日付の別のメモに記されている。

 これらの資料には、ABCCの日本人医師、玉垣秀也氏(84)らが報告した原爆の残留放射線の 人体影響をめぐる調査結果が添付されていた。被爆直後の入市者らに急性症状がみられるとの内容。 玉垣氏は「AEC側からこの調査の継続は反対された」と証言しており、米国は自らの核開発にとっ て有益な調査を優先した可能性がうかがえる。

 AECの歴史に詳しい広島市立大広島平和研究所の高橋博子助教(米国史)は「AECは当時、米 国内の核実験の放射性降下物に不安を抱く米市民には『安全だ』と言い続ける一方、実験による影響 調査を本格化していた。原爆の残留放射線の人体影響についてABCCに否定的な結論を出させつつ、 核実験の影響を調べることを、一挙両得と考えていたのではないか」と分析している。(森田裕美)

政治的意図にじむ

沢田昭二名古屋大名誉教授(物理学)の話  ホール・ボディー・カウンターが測定するセシウム137は、体内に取り込んでから百日で半分が 体外に排出されてしまう。被爆から十年以上後では、その直前に環境から取り込んだものしか測定で きない。AECは承知していたはずで、極めて政治的な意図からABCCへ調査を指示したことがう かがえる資料だ。



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