中国新聞

   (上) 同時多発

2時間で一気に被災

― 「危険個所」以外も5件 ―



  ■「ドーンという音」

 すさまじい雨は三時間も続いた。午後三時から六時までに一五五 ㍉。年間降水量の一割にもあたる猛烈な雨だった。

 四人が犠牲となった呉市吉浦東町。五時過ぎに発生した土石流 は、山に面する木造二階建ての家屋を押し流し、平屋を巻き込み、 南側の教会をも建物ごと突き動かした。「ドーンというすごい音が して…」。災害現場の約五十メートル上に住む六十七歳の女性は、 生き埋めになった妹夫婦に、近づくことさえできなかった。

 呉市災害対策本部や呉市消防局には、刻々と土砂崩れの報告が入 った。「生き埋めだ」「一人不明」。職員たちは、地図を見ながら 場所を確認する一方、消防隊員らは現場に直行した。広島県知事か ら災害派遣要請を受けた海上自衛隊呉総監部からも、四百六十人の 隊員が派遣された。

  ■呉市内に31件集中

 広島県消防防災課がまとめた、県内で発生した四十件のがけ崩れ のうち、三十一件が呉市内に集中した。共通したのはいずれも「ド ーン」という爆発音直後の土石流。観測史上二番目となる、三時台 の時間雨量七〇㍉の集中豪雨が、一瞬のうちに建物を押しつぶし た。

 呉市の集中豪雨の約一時間前、広島市消防局の通信司令室は、相 次ぐ「土砂崩れ」の情報にてんてこまいだった。普段、一日の一一 九番通報は百八十件。二十九日は、午後二時からの三時間だけで も、四百件を超えた。通常三本の電話で対応するが、この日は臨時 に十一本に増やした。

 それでも通報の発信場所を示す電光掲示板には「五日市」「可 部」など、市内北、西部の赤ランプが点滅し続けた。佐伯区五日市 町の広島グリーンヒル病院(結城庸院長)にも、五時すぎから、被 災者たちが続々と避難してきた。

 人的被害のあった場所を、広島市消防局の集計をもとに白地図に 落としてみた。被害が多かったのは佐伯区と安佐北区。土砂や根こ そぎ流された大木、折り重なった電柱…。特に、佐伯区の八幡川沿 いは、「どこから手を」と住民が絶句するほどの状況。市内の二十 件の災害のうち、十三件が集中した。

  ■唇をかむ消防署員

 被害の時間帯もいっしょに地図に加えてみた。すると、記録的な 時間雨量五三㍉となった午後三時以降の二時間に被害が集中。土石 流危険渓流や急傾斜地崩壊危険個所に指定されていない地域が五件 もあった。

 三十日、広島、呉の被災現場では、遺体が次々と発見された。一 体、また一体…。「あちこちで一斉に出動があって、思うように対 応ができなかった」。唇をかむ消防署員。その言葉に、今回の「同 時多発豪雨」の怖さをみた。


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