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(中) メカニズム
斜面の岩盤「滑り台」 ― もろいまさ土押し流す ― |
■雨蓄え瀬戸内直撃 レーダーエコー。広島地方気象台にあるこの装置は、全国二十カ 所のレーダーがとらえた降水情報を合成し、雨量を色分けしてモニ ターの地図に描き出す。二十九日朝、九州北部から山口県にかけ て、赤色が点滅した。雨が特に強いサインは、徐々に東に移った。
梅雨の時期、中国地方の豪雨には、大きく二つの型がある。一九 八八(昭和六十三)年七月の加計・浜田災害では、暖かく湿った空 気が、山陰から北西の風に乗って入り込んだ。今回は南西から、豊 後水道を通るコース。九州、四国の山にぶつからない分、雨を降ら せる力を蓄え、山口県東部から広島県西部の瀬戸内を襲うタイプ だ。 「今回と八八年では、雨域の広がりも違う」と水野芳成主任予報 官(43)は、紙に印刷した二つのレーダーエコー画像を示した。特定 の地域に被害が集中した加計・浜田災害では、強い雨域は一本の 線。二十九日の画像では、広島県西部に南北方向の線が何本も並 び、広い範囲で大雨が降ったことを裏付ける。 ただ、大雨の地域を市町村単位など細かく予測するのは、雲の発 達を占う風をち密に観測しない限り無理だという。「広島か呉かを 判断するのも困難」。水野主任予報官は言う。
■27人中17人が犠牲 豪雨災害の恐ろしさは、雨に伴う土砂崩壊にある。今回、亡くな った中国四県の二十七人中、少なくとも十七人がその犠牲者だ。 広島大名誉教授の栃木省二氏(72)=砂防学=は、広島、呉両市の 被災現場を上空から視察し、一日には広島市安佐北区亀山九丁目の 現場を調べた。深くえぐられた谷、むき出しの岩盤。風化した花こ う岩(まさ土)が流れた跡だった。「山自体が崩れやすく、どこで 災害が起きてもおかしくない」と、中国地方に多い花こう岩地帯で の斜面崩落の危険性を指摘した。 花こう岩は、隆起や侵食による風化を重ね、もろいまさ土とな る。崩落のメカニズムはこうだ。急傾斜に多量の雨が降ると、まさ 土が雨水を含み泥状化する。保水力の限界を超えると、固い岩盤と の間を地下水が流れ、表層の土砂が岩盤の上を一気に下る。岩石や 樹木を巻き込み、速度、質量とも増せば土石流となる。 住宅の裏山が崩れ、四人の犠牲者を出した呉市吉浦東町の現場 は、急傾斜地崩壊危険区域に指定されていた。自治会長で市議の岡 本節三さん(52)は「でも斜面には岩盤があるので、まだ大丈夫と思 っていた」と話す。だが岩盤は、土砂を押し流す「滑り台」にもな る。崩壊後、現場では露出した岩盤の上を水が滝のように音を立て て流れた。 ■植生の変化も影響 広島大大学院生物圏科学研究科の中根周歩教授は、土砂崩れの背 景として、松枯れなど植生の変化に注目する。直径三十センチの松 は、枯れていなければ二十二トンの土を抑える上、花こう岩の割れ 目にも根を張って斜面崩壊を防ぐ、という。 広島市佐伯区五日市町上小深川の土石流現場付近の松は枯れ、電 信柱のようだ。中根教授は「土壌とともに植生の抜本的な調査をす るべきだ」と提案する。 |