中国新聞

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3.危機管理


  対策本部設置 迅速に ―職員の意識改革進める―


 「皆さんの判断が一人の命を救うこともある」。今月十四日夕、 広島市中区役所の会議室。市の建設、土木担当の職員有志十四人が 集まって初めて開いた「防災と気象予報」の勉強会で、講師の気象 予報士井上貞さん(62)=南区堀越二丁目=は、こう訴えた。

気象情報の読み方や、土砂災害の仕組みを学ぼうと、広島 市職員が初めて開いた自主勉強会(広島市中区役所)

 6・29豪雨災害当日の県西部の降水予報や雨雲の動きをとらえた 気象図を示しながら、豪雨の発生メカニズムを解説。職員たちは資 料に熱心に目を通しながら、うなずいていた。

 ●「気象の知識必要」

 災害四日後の七月三日に安佐北区内の被災地へ応援派遣された南 区土木課職員(42)は「川も道も土砂だらけ。初めての経験でどこか ら手をつけていいのか分からなかった」と振り返る。気象情報につ いても正確に判断できる知識が必要、と痛感し参加した。勉強会を 呼び掛けた中区の加土国昭管理課長は「6・29を契機に、職員の意 識も変化してきたのではないだろうか」とみる。

 「6・29」では、危機管理に対する行政の姿勢が問われた。大多 数の職員を動員し、首長が指揮を執る災害対策本部の設置時期の違 いがそれを物語る。

6月29日午後4時50分呉市
30日午後3時
7月2日午後6時広島市

 呉市は、職員が応急体制に入る災害警戒本部設置から二十分後に 切り替えた。低地部にある市庁舎の一帯は水浸し。市民からの電話 も鳴りっぱなしだった。防災担当の職員は「だれもが、これは大変 なことになると感じたはず」。

 同市では九一年の台風19号で、二人の犠牲者を出し災害救助法の 適用を受けるほどの被害だったにもかかわらず、災害対策本部を設 置しなかったという苦い経験もあった。

 ●設置基準あいまい

 これに対し県、広島市は「6・29」当日にそれぞれ、災害警戒本 部、水防本部体制を敷いていたものの、災害対策本部への格上げは 遅れた。豪雨が極めて短時間に集中した上、設置基準があいまいだ ったためでもある。

 この反省から、県と広島市は、災害対策本部の設置に関し、雨量 で判断できるよう今月、地域防災計画を見直した。県の場合は、こ れまで「被害が相当大規模に及ぶおそれがある場合」などとしてい たのを、「総雨量一〇〇ミリを越え、引き続き時間雨量四〇ミリを超す と予測されるとき」に検討開始すると明確化した。

 素早く対応した呉市も、市民や報道機関への情報伝達では混乱が あったため、各課の役割を具体的に地域防災計画に盛り込んだ。

 ●不明確だった役割

 ただ、住民に適切な避難指示をしたり、救命、復旧に当たったり するのは職員一人ひとり。県消防防災課が「6・29」直後、かかわ った職員四百九十人を対象に実施したアンケートでは、「自分が何 をすべきか不明確だった」「災害に対する認識に温度差があった」 といった意見が目立った。

 県は昨秋以来、管理職を対象に「危機管理能力向上研修」を導 入。全課に災害時の行動マニュアルを作成中で、七割は完了した。

 「日ごろから全職員が高い意識を保つのは難しい。自分がどう行 動すべきか、研修や体を動かす訓練を重ねていくしかない」。消防 防災課の井尻勝課長代理は、あらためてそう感じている。


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