▽問答無用の制裁論懸念
―国際社会の再三の制止を振り切り、核実験を強行した北朝鮮をどう見ますか。
怒りというより、愚かさを感じる。国際社会との数少ない対話の窓口だった中国、韓国の支援も失いつつある。核兵器を交渉のカードに使う瀬戸際外交が、行き着くところまで行った感じがする。六カ国協議で積み上げた非核化の約束を自ら壊し、孤立を深める金正日(キムジョンイル)政権は、冷静で客観的な判断ができなくなっているのではないか。
先制是認の論調
―七月のミサイル発射実験に続く挑発により、北朝鮮強硬論が盛り上がってます。
核実験への怒りより、「何をするか分からない国」への恐れが先行している。経済制裁だけでなく、先制攻撃を当然視する論調も広がっている。テレビでは「北朝鮮を滅ぼせ」という街の声を取り上げていた。昔なら人前で発言することがはばかられた好戦的な言動が目立ってきた。
―「力で力を制する」という思考にどう対応すればいいのでしょう。
制裁が何を招くのか、立ち止まって考えた方がいい。イラクでは湾岸戦争後の経済制裁で、医薬品と医療機器の輸入が止まった。その結果、多くの人々が命を落とした。経済制裁で窮地に陥るのは金総書記一人ではない。北朝鮮の国民がどうなるのかという想像力が、恐怖心の中で失われているのではないか。北朝鮮の核実験は、北東アジアに新たな核拡散の危機を招いたことに加え、日本人の想像力を奪った意味で二重に犯罪的だといえる。
苦しむ側想像を
―ヒロシマの願いが裏切られ続けています。平和運動に再構築策はありますか。
頼りないようでも、一人一人の想像力に訴えかけるしかない。爆弾を落とす側より落とされる側、制裁を加える側より、飢餓と病気に苦しむ側の立場を想像することこそ、今訴えるべき大事なことだ。問答無用の制裁論は、国際世論を無視する北朝鮮政府と同じようにレベルが低い。
―被爆地の平和運動に、何が求められているのでしょう。
湾岸戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾の被害を伝える講演活動をしている。市民からは「自分が何かしなければと思った」という感想文をよくもらう。知ることで想像力が広がり、行動につながる。平和運動は砂漠に水をまくような地道な作業。だが、行動しなくなったらおしまいだ。今こそ「対話の力」が問われている。(石川昌義)
もりたき・はるこ 広島県被団協の初代理事長だった故森滝市郎・広島大名誉教授の二女。2000年5月、「インド・パキスタン青少年と平和交流をすすめる会」を創設。01年3月から「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の共同代表。
【写真説明】「恐怖心で目を閉ざすのではなく、想像力を持って北朝鮮を見つめる時だ」と強調する森滝さん
    
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