原爆の犠牲者、戸籍上は生存
'98/8/4
広島に投下された原爆で爆死した犠牲者が、戸籍上は生存してい ることが三日、分かった。被爆直後の混乱で遺族が死亡届を出せな かったためだが、中区の原爆慰霊碑に納めてある原爆死没者名簿に は掲載されている。広島法務局は死亡現認の証言がない場合、遺族 からの死亡届の受理に難色を示しており、被爆者から調査徹底を市 に求める声が出ている。
生存戸籍が残っているのは室田キクヨさん。五十三年前の八月六 日、西区南観音町の自宅にいた室田さん=当時(42)=は、倒壊した 家の下敷きになり死亡し、市内の墓に埋葬されている。二女(59)が 先月、厚生年金の申請手続きのため戸籍謄本を取ったところ、戸籍 上は九十五歳で存命していることが判明した。
本籍地を管轄する中区役所に相談したところ、亡くなった状況を 書き込んだ書類を添付し、あらためて死亡届を提出するよう求めら れた。しかし、唯一の肉親だった長女は十九年前に他界。当時六歳 で、母親の遺体も見ていない二女には、当時の様子は分からず、対 応に苦慮している。
戦後しばらく、知人宅を転々とした二女は「どういう事情だった か分からないが、母の霊が浮かばれない。急いで届けを出したい が、受理されるのか不安」と話す。これに対し、広島法務局は「死 亡を現認した遺族などの証言がない場合、個別に審査するが、簡単 には受理できない」と説明している。
被爆死しながら戸籍上は生存していたケースは、被爆者援護法に 基づく特別葬祭給付金の申請の際、戸籍謄本を取った遺族によって 相次ぎ判明し、三年前から昨年六月にかけて、広島法務局に同じよ うな相談が数十件寄せられた。
その後、市は原爆死没者名簿との照合などの対応策を取っていな い。広島平和会館にある被爆者相談所は「五十三年もたちながら、 被爆者にとって戦後は終わっていないというあかし。原爆被害の実 態をつかんでこなかった国や市は、徹底的な調査に乗り出す責任が ある」と話している。
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