核軍縮は進むか

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上.しぼんだ期待

― 米、新型核の開発にらむ ―

 核拡散防止条約(NPT)が発効して三十五年を迎えた今年三月上旬、ブッシュ米大統領は声明を発表した。そこでは、世界平和に「極めて重要な貢献」をしているとNPTを評価し、条約が定めた核軍縮などの努力義務を履行する決意も示した。だが、自国だけで約一万発もある核兵器の「廃絶」には、具体的には触れなかった。

 前回(二〇〇〇年)のNPT再検討会議は核兵器保有国も含めた全会一致で、廃絶への「明確な約束」を最終文書に盛り込んだ。核兵器のない二十一世紀への「第一の扉」が開いたと、広島や長崎の被爆地をはじめ世界がこぞって歓迎した歴史的な成果だった。

グラフ「米、ロの核兵器保有数の推移」

 しかし米国は今、その約束を忘れたかのように振る舞う。

 例えば、地中に潜むテロリストを攻撃するために地中貫通型核兵器の研究開発に乗り出そうとし、必要があればすぐに核実験を再開できる態勢を整えようとしている。前クリントン政権時代に署名した包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准をブッシュ政権は拒み続ける。

 一国主義での核軍拡。そうした現状を「米国内の核肯定論者の間ですら『そこまでやるのか』という議論が現実にある」と、広島市立大広島平和研究所の浅井基文所長は指摘する。通常兵器との境界をなくし、使える核兵器の開発に向かう異様さと危うさがあるというのだ。

 ブッシュ大統領が声明で唯一、核軍縮の成果だと強調したのは、ロシアとの間で〇二年に交わした戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)だった。二〇一二年末までに互いに戦略核弾頭を千七百〜二千二百個以下に減らす内容。だがそれも、削減を検証する詳細な方法は不明のうえ、削減した核弾頭の廃棄も義務付けていない。再配備できる「抜け道」がある。

 前向きな見方もある。外務省の天野之弥軍縮不拡散・科学部長は、米ロ間の第二次、第三次戦略兵器削減条約(START2、3)を念頭に「履行されれば現実に、核兵器は少しでも減る。『絵に描いたモチ』よりはましだ」と一定に評価する。確かに、ピーク時の一九八〇年代後半に七万発近くにまで達していた核兵器は、東西冷戦が終わった現在、予備・解体待ちのロシアの約一万発を含め、世界で三万発程度に減少した。

 しかし、大阪大大学院の黒沢満教授はこう言い切る。「人類を十回以上絶滅できていた核兵器の数が、五回分に減ったということ。一回絶滅できるだけでも大変なことで、実質的な違いはない」

 人類がヒロシマ、ナガサキの悲劇に直面してから六〇年。核時代の「負の遺産」は今なお、私たちの未来を脅かす。この五年間で大きく後戻りした振り子を再び、核軍縮へ、核兵器廃絶へと向かわせることができるのだろうか。五月二日、米ニューヨークの国連本部で開幕するNPT再検討会議を前に、その行方を探る。

2005.4.26