中.被爆国
― 米の「核の傘」が制約に ―
被爆国日本政府にとって、前回(二〇〇〇年)の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ほろ苦い結末でもあった。会議が全会一致で核兵器廃絶を「明確に約束」したことは、政府がそれまで繰り返していた「究極的な廃絶」の文言の否定を意味したからだ。以来、被爆国の政策から、「究極」の言葉は消えた。
もともと、廃絶がいつ実現するか分からず、あいまいな表現だと被爆者たちには不評だった。それでも政府がこだわってきたのは理由がある。被爆国として核兵器廃絶を政策目標に掲げながら、自国の安全保障は米国の「核の傘」に頼る。その矛盾を覆い隠すには、都合のいい言葉だった。
包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効要件国44カ国の署名・批准状況
(4月25日現在、外務省調べ)
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【署名も批准もしていない】=3カ国
北朝鮮、インド、パキスタン
【署名したが批准していない】=8カ国
中国、コロンビア、エジプト、インドネシア、イラン、イスラエル、米国、ベトナム
【署名・批准済み】=33カ国
日本、フランス、ドイツ、韓国、ロシア、英国など
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だが、言葉遣いは変わってもスタンスは以前と同じだとみる向きは多い。「米国が新たな核兵器開発方針を示した時、きちんと抗議すべきだった。なのに何一つ言わない。原爆を投下した米国に追随するのは、やりきれず、情けない」。日本被団協の田中煕巳事務局長は、被爆国の「限界」を見る思いだという。
反核市民団体「ピースデポ」(横浜市)の梅林宏道代表も「官僚が必要以上に米国を恐れ、顔色をうかがう。冷戦時代と同じ発想のままだ」と指摘する。広島市立大広島平和研究所の浅井基文所長は「非核三原則があるから核は持ち込ませない。でも、いざとなったら核兵器で守ってもらう。そんな議論は国際的には全く通用しない」と手厳しい。
確かに東アジアを見渡せば、中国は軍拡路線を変えようとせず、北朝鮮は今年二月、初めて公式に核兵器保有を宣言した。「核の傘」の必要論は根強くある。
明治学院大の高原孝生教授はしかし、「核の傘は幻想かもしれず、無批判に受け入れるのは問題」と主張する。専守防衛と言うには、核による報復は攻撃的すぎてなじまない―などが理由だ。「冷戦終結のタイミングで、核の傘に依存する政策から転換する選択肢もあり得た。今も可能だ」
政府は一九九四年から国連総会に核兵器廃絶決議を提案。賛成多数で毎年採択される中、米国はブッシュ政権となった二〇〇一年から反対に回った。日本が核軍縮分野の最重要課題と位置付ける包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効に、米国は強く反発するためだ。それでも「粘り強く米国に早期発効を言い続ける」と外務省の天野之弥軍縮不拡散・科学部長。対米スタンスの微妙な変化の兆しとも受け取れる。
前回の再検討会議で日本は、核軍縮分野を中心に八項目の提案をした。うちCTBT早期発効などは最終文書に、「明確な約束」とともに盛り込まれた。今回も同様の提案をし、各国間の論議を主導したい構えだ。
被爆国の提案が実を結ぶか、あるいは前回の「究極」のように、逆に自らの政策変更を強いられるのか。再検討会議のもう一つの焦点である。
2005.4.27
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